ルートヴィッヒの上にそーっと乗り上げて、かぷりと鼻の先に歯を立ててみる。反応なし。俺は舌舐めずりをして、にやりと口の端を吊り上げた。
食後のコーヒー、珍しく俺が淹れてやったそれを、ルートヴィッヒは何の疑問も持たずに干した。俺がそこにちょっとばかり強力な睡眠薬を落し込んだとも知らずに。薬の効果は抜群で、ルートヴィッヒはぐっすり眠っている。
あーあ、こんなでっかくなっちまってさ。こうなるように育てたのは俺なんだが、失敗したかなと思わなくもない。俺より背が高くても、もう少し細身だったら可愛いのに。いやいや、このルートヴィッヒだって俺にとっては目に入れても痛くないと程に可愛いんだが。
けどまぁ何というか、何もかも抜かれたらお兄様として立つ瀬がない気がする。ちょっと、ちょっとだけ悔しい。それだけ。それだけ、だ。
俺はルートヴィッヒが深い眠りの中にいるのを確認してから、一番上まで留められたシャツのボタンに手を掛ける。ぷつりぷつり、1つずつ丁寧に外していくと、ルートヴィッヒの厚い胸板が現われた。鎖骨辺りにつけてやったキスマークが残っているのが見えて、俺はくふりと笑う。
そしてスラックスも下着と一緒にとっとと抜いてしまう。剥いだ服を纏めてベッドの下に落として、俺はルートヴィッヒの体のラインを辿る。憎たらしいくらいに逞しい男の体。半分くらい俺に寄越せ、そうしたら丁度いい体格差になる。
そんなことを考えながら、俺は自分の服を脱ぎにかかる。少しばかり冷たい空気に晒される、貧相な体と生っ白い肌。元々筋肉がつきにくかったけど、昔はもう少しマシだったのにな。チェーと口を尖らせて、俺はスラックスから足を抜く。下着に手を掛ける、薄い布地に包まれたそこは僅かに熱を持っている。まだ何もしていないのに、弟の体を眺めていて反応するなんて、どうしようもない。
あぁけど、止められない。たまにはいいじゃねぇか、別に。起きたら烈火の如く怒るだろうけど、こいつ。
「ん……、ふ…」
足の間に陣取って、俺は萎えているそれを口に含む。本当な萎えてんのかと思う質量は、舐め回しているうちに更に増す。先の方を甘噛みしてみたら、手の中であからさまに大きくなった。変態。ぐっすり寝てる癖にこんな敏感に反応すんな。俺にされて気持ちいいのは分かるけどよ。
…あぁ、というかこのデカさ、やっぱり半端ないと思う。神様は何だってこいつにこんな兵器を授けたんだろう。面白くねぇ、実に。けど愛しい、睡眠薬盛って襲っちまうくらいには、愛しくて堪らない。
「は…ぁ…ルッツ…」
しゃぶってるだけでやけに興奮して、俺はそろりと下半身に手を向ける。握り込んだそこは自分でも恥ずかしいくらいにドロドロになっていた。ちょっと扱くだけで快楽に背筋が震える。あ、あ、堪んねぇ、凄ぇイイ。
ルートヴィッヒはたまに鼻に掛かった息を漏らすくらいで、まだ起きない。俺は忙しなく息を吐きながら舌と指を動かす。一回出したいな、でもちょっと勿体ない、かも。迫り上がってくる絶頂感をどうにかやり過ごして、俺はルートヴィッヒのモノから口を離す。
ごそごそベッドサイドの棚を漁ると、目当てのものは存外すぐに見付かった。革の手枷──手錠なんかよりは多少擦れて傷になることも少ないそれ。ベルトを外して片方をルートヴィッヒの右手に嵌める。鎖の部分をヘッドレストの格子に通してから、もう片方を左手に。軽く引っ張ってみて、簡単には外れないことを確かめる。
「ルーッツ」
猫撫で声で名前を呼んで、俺は唇を重ねる。触れるだけのそれ、差し出した舌で薄い唇を辿る。いっつもこの口で俺のことを散々詰ってんだと思ったら、何かぞくぞくした。今日もまたそんな言葉を吐くんだろうか。こんな状況で、俺に好き勝手にされて?あぁ、それは凄く滑稽だ。けど、何故だか凄く興奮する。俺も大概変態だ、自嘲しながら俺はルートヴィッヒの腹に手をつく。
その時。ぴく、とルートヴィッヒが初めて反応らしい反応をした。眉が如何にも不快そうに寄せられて、それからゆっくりと、瞼が開く。まるでサファイアみたいな綺麗な碧眼は、俺を見留めてきょとりと瞬かれる。
寝惚けてるうちに、と俺はルッツの体を跨いで腰を落とす。完勃ちしてるのに手を添えて狙いを定めて、胎内にぶっといのを迎え入れた。
「うぁ、あぁっ…は…んんっ」
「っ、何してる…!」
根本まで一気に咥え込むと、もう、言葉に出来ないくらいイイ。ルートヴィッヒが漸く事態を飲み込んで声を上げたけど、そんなの知ったことじゃなかった。粘膜が大きさになれるより早く、ずるずると腰を振り始める。風呂でしっかり解しておいたそこは、少しの圧迫感だけでただただ快楽を伝えてくる。ヤバ、い…ほんと、堪んね。
ガチャガチャ、ルートヴィッヒが鎖を鳴らす。吐き出される怒声、明らかにキレてるそれを、俺の耳は恣意的に取り零す。
「止めろっ…おい、聞いてるのか、兄さん!」
「あっあ、ぁ…すご、イイ…ああぁっ」
腰を浮かせて前立腺を捏ね回す。太くて堅いのにごりごり擦られて、視界がちかちかする。
ルートヴィッヒはいつも奥に奥に向かって突き上げてくるけど、俺はどっちかって言うと浅いとこの方が好きだ。そっちの方が明確な快感を得られるから。奥は気持ちいいのか気持ち悪いのかよく分かんなくて、怖くなる。別に嫌いじゃ、ねぇけど。
「ぁ、あっ…もっと…ルツ、ルッツぅ!」
「いい加減に、っ、ギルベルト…!」
「ひぁっ……あ、ぁ、あー…る、出る…っ」
自分じゃ制御不可能な快楽の波が、挿れる前から限界が近かった俺を絶頂に押し上げる。どろり、吐き出したものはルートヴィッヒの腹を汚した。酸欠で目の前が白む。だけど俺の目はルートヴィッヒの表情をしっかり捉えていた。怒りを湛えて冷えきった碧、その視線が俺を射抜く。その冴え冴えした冷たさに欲を煽られた。
一度熱を吐き出したそこがまた芯を持ち始めているのを感じながら、俺はぺたりと上体を倒す。ルートヴィッヒの上に、寝そべるみたいに。距離が縮まった俺の顔をルートヴィッヒはぎろりと睨む。敵や部下が見たら怯むだろうそれも、俺には摧淫効果しか齎さない。本当、男前になったよな。俺に比べたらまだまだ可愛い餓鬼の癖に。
「何のつもりだ、」
「たまには俺にさせろよ」
好きなように弄ばれるだけなのは性に合わねぇんだ。知ってるだろ、幼子に言い聞かせるみたいに囁く。
全く納得する気がないらしいルートヴィッヒの顔の輪郭を、俺は指で辿る。自分が突っ込まれてないだけマシか、とかそういうこと考えられねぇのかよこいつは。俺が受け身ってのは永久確定事項なのか、なぁ、ルートヴィッヒ。物言いたげな唇に触れると、待ってましたと言わんばかりに歯を立てられた。俺が反射的に手を引くよりも早く、僅かに血が滲んだ箇所に舌を這わされる。ぴちゃり、わざと音を立てて舐め上げられて、ぞくぞく腰が震える。
「枷を取れ、兄さん。悦くしてやるから」
「いーやーだ。今日はお前に主導権やらないって決めてんだよ」
俺は断じてマゾヒストじゃあない。にも拘わらず、いつもはこのドSな弟に付き合ってやってる訳だ。蜜蝋とか教鞭とか、何でこんなもんに耐えなきゃいけないんだと思いながら。だから今日くらいは、他人の嗜好に付き合わされるのがどれだけ大変か、たっぷり感じればいい。そうしたら少しはお兄様の扱いを見直す気にもなるだろう。余計に酷くされる気が、しなくもないが。
「兄さ」
「もう黙れよ、お前」
昔の、苛烈な兄貴だった頃の俺様の口調で言い放つ。刷り込みか、ルートヴィッヒは微かに畏縮する気配を見せた。
その隙に唇を塞いで──濃厚な口付け。ここでも俺はルートヴィッヒに主導権を譲らない。自分がされるみたいに舌を絡めて、唾液を混ぜ合わせる。お互いに目は閉じない。見つめ合って、射殺すのが目的みたいな鋭い視線を交わし合う。くぅっと目を細めて笑うと、ルートヴィッヒは険を滲ませた。
「…覚えていろ」
ぼそりと呟かれた言葉に、俺は勿論だと笑みを深めた。