じゃら、と鎖が耳障りな音を立てる。ギルベルトはそれに覚醒を促され、うっすらと目を開けた。寝返りを打つとまたじゃらりと鎖が鳴る。それは足首に填められた枷から伸びてベッドの脚に固定されている。長さは丁度部屋の中を歩き回れるくらいだ。部屋にはトイレも風呂もあったから、大して不自由は感じない。

「、朝…か」

 億劫そうに時計に視線を遣り、ギルベルトは呟く。ここのところ人間らしい生活からは離れているのだが、体に染み付いた習慣は健在らしい。まだ寝ていても何の支障もないのだが、と思いながらギルベルトは体を起こした。
 欠伸を噛み殺しながら素足を床につける。立とうとした瞬間に、ずくりと鈍い痛みが腰に走った。それに眉を顰めたもののギルベルトは再びベッドに座り込むことはしない。昨夜中に出されたものが内腿を伝うのを感じながら、のろのろと浴室に向かう。何も身に着けていないから脱衣所は素通りして、シャワーのコックを捻る。出てきた湯は多少温かったが、構わずに全身に浴びた。

「はぁ…」

 汗を洗い流していく湯にギルベルトの口から自然と溜め息が出る。それは心地好さと、諦念からのものだった。この部屋に閉じ込められてからもう何日が過ぎただろう。繰り返される何事もない日々に、思考が摩耗していくのが分かる。それでも尚考えるのは、今は部屋にいない愛しい弟のことだ。ギルベルトを枷に繋いだ張本人。
が当のギルベルトは恨めしく思ってはいなかった。彼に悪気がないのは重々承知のことだったので。

「ん……、ぁ…っ」

 そろりと後孔に指を忍ばせて、ギルベルトは熱っぽい声を上げる。いくら愛しい人のそれとはいえ、そのままにしておいて腹を下すのはご免だ。深くに出されたものを出来るだけ中を刺激しないように掻き出していく。冷たくなってしまったものが出ていく感触というのは、未だに慣れられたものではない。
 ぞわりと体を震わせて、それでもギルベルトは熱い息を吐いた。条件反射に近い反応、意に反して中は甘く蕩け始める。一体いつからこんな風にイヤらしい反応をするようになったのだろう。随分と慣らされたものだと思う。本来は排泄器官である場所で、意識を飛ばしてしまうくらいに感じる、なんて。

「は、ぁっ…ふ……んんっ…」

 動かす指が別の意志を持ってしまうことを止められない。ギルベルトはそんな自分に緩く首を振る。それなのに行為を止められなかった。そっと目を伏せて刺激だけに意識を向けると、より快楽が膨れ上がる。熱を孕み始めた内壁は悦んで指を食んだ。
 最早別の意味でびくびくと体を震わせるギルベルトは、気付くことが出来ない。浴室に入ってきた─人の気配に。

「ひぁっ…ぁ、あ、あぁ?!」

 するりと腰に腕を回されて緩く勃ち上がっている自身に指を絡められる。ギルベルトは背をのけ反らせ、弾かれたように目を開けた。途端に視界に逞しい腕が飛び込んでくる。腕はしっかりとギルベルトの体を抱いて、指は的確に弱いところばかりを刺激する。それに身悶えながら、ギルベルトは必死で半身を返した。

「っ、…ルッツぅ……ふぁ…ぁうっ」

 そこにいたのは、考えるまでもなく弟──ルートヴィッヒだった。彼は服を着たままの体を湯に打たせながら、それを気にする風もなく薄く笑う。
 ギルベルトは熱の籠った目でルートヴィッヒを見つめる。冴え冴えとした碧がくぅっと細められる様は、堪らなく腰にキた。これからどうされるのだろうと思うと期待に心が震えてしまう。それに応えるかのように、ルートヴィッヒの口から冷たい声音が吐き出される。

「朝から何をしているんだ、貴方は」
「ぁ、だって…やっ…ぁあ…!」

 キツく根本を戒められた後、まだ自分の指が残っている後孔にルートヴィッヒの指が押し入ってくる。その感覚にギルベルトは恍惚とした。頽れてしまいそうな膝を立てようと壁に縋り付き、何とか己の体を支える。シャワーの音で聞こえないが、さぞはしたない水音が立っていることだろう。指を動かされる度にひっきりなしに声を上げて、ギルベルトは快楽を貪る。達することが出来ないのは分かっていたが、そんなことは関係がなかった。ルートヴィッヒから与えられるものなら、快楽でも苦痛でも喜んで受け入れる。
 けれど。

「兄さん…」
「ル…ツ、ルッツ…っ、そこだめぇ…!」

 脚に絡む重い鎖だけは、到底受け入れられそうにもなかった。






枷なんていらない
(こんなものなくたって)
(俺はもうとっくにお前に囚われてる)






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