※色々とイタイ話なので要注意。
はぁはぁと荒い息遣いを繰り返す。いくら酸素を取り込んでも息苦しさは一向に晴れなかった。それどころか余計に息が上がって涙まで出てくる始末。抗議の言葉は籠った唸り声になるばかり。
俺が何をしたと言いたい、本当に。
ぎちりと腕に食い込む手枷には鎖が通してある。天井の杭に引っ掛けられているそれは、手を上に伸ばしきると丁度膝立ちになる長さに調整されている。立てばそんな長さは関係ないのだが、俺は今立つことが出来なかった。膝裏に当て行われたポールが足の間隔と屈折を固定して、動かすことを許してはくれないのだ。それに加えて。
心なしか速度が速くなった気がして、俺はびくりと体を跳ねさせる。何の速さかって、アヌスに突っ込まれたぶっといバイブのだ。ついでに乳首にはニップルクリップが、ペニスにはローターが。それぞれに休みなく俺に刺激を送り込み続けている。
だっていうのにイけないようにされてるし。ボールギャグまで噛まされてるし。
何したっけ俺、何かいけないことしたか? こんな拷問みたいな真似されなきゃいけないようなこと、したか?
否、断じて否。何もしていないと言い切れる。なのに、あぁ、クソ。
「んひっ…んぅ、んんんんんんーっ!」
動きを変えたバイブが、ごりごりと前立腺を抉り始める。
喉が引き攣って悲鳴が漏れるけど、それはやっぱり正面な声にはならなかった。聞き苦しい叫び、それは俺以外の誰にも聞かれない。
だってこの部屋には俺しかいないから。この苦しみから救ってくれる奴はどこにもいないから。
込み上げてくる射精感に俺は力なく頭を振る。イったって辛いだけだ、精液なんか一滴だって出せやしない。そう思う脳に、飼い慣らされ躾けられた体は相反する。駆け上がる絶頂、もう何度目とも分からないそれに視界が明滅した。がくがく腰が震えて体から力が抜ける。
体重がかかって吊られた手首が痛む、だけどそんなことはもう気にならない。口の端から唾液が垂れて喉を、胸を、滑り落ちる。それさえもが快楽の糸口。
与えられる感覚に正面な意識が摩耗していく。残るのは苦しいまでの快楽を求める浅ましい部分だけで。頭の隅にほんの少し残存する理性の言うことなんて聞いちゃくれない。
放置されて何時間になったんだろう。正直なところ、血流を止められたペニスは随分と前から感覚がない。それなのに刺激を感じるのは幻痛とかと同じ類なのかと思う。本当に幻なら嬉しいのに。
戒められて狭い口内で舌を動かすと、ずくりと鈍い痛みが跳ねた。殴られた時に口の中を切ったらしい。
いきなり無体を働かれたら誰だって抵抗するだろう。思いっ切り殴りやがって。お蔭で俺は軽い脳震盪を起こして、漸く頭がはっきりした頃にはこんな状態になっていた。
何のつもりだと怒鳴ろうとした俺の口に無理矢理ボールギャグを突っ込んで、あいつは。ルートヴィッヒは、一言。
報いは受けるべきだろう、なぁ、ギルベルト。
そう言い放った。
何だ報いって、そんなの俺は知らない。きちんと説明するべきだ、こんな強行手段に及ぶ前に。
有り得ない有り得ない、何だってあいつはたまに思考回路がこうもぶっ飛んでるんだ。普段は面白みに欠けるくらいに堅物の癖に。ヤバいスイッチが一度入ると毎回こうで、被害に遭うのはいつも俺。しかもその被害ってのが半端じゃない。
前の時は終わった後に確か3日くらい正面に動けなくなった。その前は喉を痛めて喋れないどころか食事をするのさえ辛かった。
ルートヴィッヒよ、お前はお兄様を何だと思ってるんだ。ストレス解消用の奴隷とかじゃないぞ、マジで。実に認識を改めて欲しい。
それか小さくて可愛かった頃に戻ってくれ。兄さんを傷付ける悪い奴は俺が懲らしめてやる!なんて言ってたのが嘘みたいだ。同一人物だと思いたくない。俺の思考は思い出と現在をイコールで結ぶことを拒絶する。
非常に正しい反応だと思う。報いならお前が受けろよ、俺に無体を働きまくった報いを。
バイブの動きは止まらない。無情なそれに俺はまた追い上げられる。過ぎた快楽に脳がふわりと浮遊する幻覚、苦鳴を上げて俺は意識をすっ飛ばした。
起きたら状況が変わっているとか、実は夢だったとか。そんな俺の期待は見事に裏切られた。
時計がないからどれだけ経ったかなんて分からないが、ずっと負担が掛かっていた肩が痛い。手首なんて確実に痛めてるし、擦過傷も酷いだろう。
忙しない呼吸の間に溜め息を吐く。
相変わらず攻め具は俺の体を苛んでいて、その動きには容赦ってものが全くなかった。ルートヴィッヒに空イキがどれだけ辛いか分からせてやりたい。そうしたら少しは自重するようになるんじゃないかあいつ。
本当に冗談じゃなく、キツい。声を出すような気力は残っちゃいない、さっきから膝が震えてる。今度意識を飛ばしたら戻らないんじゃないかとか、考えるのは不穏なことばかりだ。
体のそこかしこが限界を訴えている。ずくずく頭の芯が痛む。いっそ狂うか死ぬかした方がマシなんじゃないか、こんなの。もう呼吸してんのも苦しい。
視界なんかぼやけっ放しで、自分がどこを向いてるのかいまいち分からなかった。今五感で正面に働いてる器官ってあるんだろうか。甚だ疑問だ。
とか思っていたら、俺の体は唐突に床に投げ出された。
鎖が外れて体の支えがなくなり、前のめりに倒れ込んだと言う方が多分正しい。腕のお蔭で何とか頭を打つことは免れたが、訳が分からない。何が起きてる?
コツリ、硬質な音が随分側で聞こえた。ブーツの硬い靴底が床を叩く音、だろうか。もしかしたら軍靴の。
取り留めのない思考がだらだら続いていく。疲労で自力じゃ1ミクロン足りとも体を動かせない自信がある。はっきりしない意識、それを覚醒させたのは、声だった。酷く冷たい、声。
「この程度で正体をなくしているのか、情けない」
言葉が耳に届いた途端、俺はふるりと震えた。必死で息を整えて目の焦点を合わせて、俺を見下ろしている筈の男へと視線を向ける。
あぁ。
何時間振りかに見る顔だ、軍服姿のルートヴィッヒがそこに立っていた。凍えた碧眼が俺を射抜く。何よりも明確に俺を詰り罵り嘲って嗤う。
はひ、と喉が妙な音を立てた。鉛のように重い手足を引き摺って、這うようにしてルートヴィッヒに近付く。縛られたままの足が床に擦れたけど、そんなことは気にもならなかった。
ルッツ、ルートヴィッヒが、いる。ここに、俺の目の前に。
それは今までで最も、恵まれた環境だった。この状況から俺を救い出せるのはルートヴィッヒしかない。俺をこの状況に追い込んだ張本人しか。だから俺は懇願する、早くその手を差し伸べてくれと。磨き抜かれた軍靴に顔を寄せる、犬や猫がするようにそれに懐く。
不意に引かれた脚は、次の瞬間に俺を蹴り飛ばした。
「んっくぅう!」
体が横倒しになる。くらくらして何が起こったのかよく理解出来ない。ただ目はルートヴィッヒを捉え続けていた。
軍靴がゆったりした動作で近寄ってくる、手がぞんざいに攻め具を外していく。戒めが解かれるとペニスはこぷりと白濁を零した。けど感覚は戻らない。バイブを抜かれたら腸液がぬちゃりと嫌な音を立てた。ボールギャグを取られた口からは唾液が伝う。乳首なんかまだついてるみたいな感覚があった。萎えた脚は床に投げ出されるばかりだ。
髪を掴まれて上体を引き摺り起こされる。
「それで、」
「ひっいぁっあああぁっ」
「反省はしたのか?」
言いながら徐に動いた足がペニスを踏み付けてくる。実際の痛みにというよりは視覚効果的な痛みに、俺は声を上げた。それは掠れて力がない。靴底と床に挟まれた急所が気になってルートヴィッヒの言葉なんて頭に入ってこない。
助けてくれるんじゃないのかよ。また違う方法で痛め付けられるのか? そんなのは嫌だ、絶え切れない。
緩く頭を振ると、溜め息と共に手が振り上げられた。鈍い音を立てて下ろされる拳、俺はまた床に転がる。げほげほ咳き込んだら口の中で血の味がした。
「本当にどうしようもないな、反吐が出る」
吐き捨てられる言葉、爪先が俺の体を器用にひっくり返す。
無理矢理膝を立たされて、緩んでいるアヌスに一気に突き立てられる灼熱。藻掻いた手は、けれど何にも縋れずに床に這う。
こっちのことなんかお構いなしで抜き差しされる、太くて硬いルートヴィッヒの、ペニス。どろどろのぐちょぐちょになった俺を見てそんな風にしてんなら、大概変態だなと思う。商売女の方が余程マシななりをしてるだろうに。体だってこんなにぎすぎすしてないし。声だってもっと高くて甘やかな筈。
それなのにルートヴィッヒの場合、無体を働くのも、その続きで犯すのも、必ず俺だ。ねちっこいまでに標的は俺、ただ一人。散々に擦られて感覚なんて摩耗してしまった気がしていたのに、アヌスは次第に快楽を覚え初めている。揺さぶられる度に震えているペニスだって。俺も大概に変態なんだろう。それともルートヴィッヒに引っ張られて変態になったのかもしれない。
ぐちゃぐちゃ奥まで無遠慮に掻き回されて、意味を成さない声が押し出されていく。こういう時は基本的にいつも、会話は成立しない。理不尽に咎められ、報いだと言われて折檻され、最終的には俺の意思に関係なく犯される。出来上がってしまった嫌なサイクル。
逃げ道なんてないから俺は甘受するしかない。与えられるものは全て。
「ぅあ、あ、アぁああっあ、ァ、あアーー!」
「ギル…ギルベルト、」
「へぁああっ!
ひぐっ、ぁ、あっッひはぁあっ」
ごりゅごりゅ、直腸を通り越して結腸に突っ込まれる先端。狭い腸壁を押し広げられる感覚に妙な快楽と共に嘔吐感が駆け上がった。
びしゃりと床を吐瀉物が汚す。食事なんて正面にしていないから、吐いたのはほとんど黄色い胃液ばかりだった。饐えた臭いが鼻につく。それにまた吐き気が込み上げてくるけれど、顔を背けることは出来ない。そんな気力はないしそんな暇も与えられない。だから俺は吐瀉物に塗れながら揺らされ続けるしかない。
深くに無理矢理押し込まれてるペニスが乱暴に粘膜を突いて、掻き混ぜて、中をぐずぐずにしていく。ぐちゃぐちゃぬちゃぬちゃいってるのはアヌスなんだろうか、それとも吐瀉物の方? どっちにしたってドロドロだ、どっちでも構いやしないか。諦念と共に目を伏せる。
そうすれば体は刺激にだけ集中して次第に追い上げられる。と、不意に腰を掴んでいたルートヴィッヒの手が動いて、俺のペニスを握り込んだ。先走りと白濁に濡れそぼったそこは、強く握られてどろりとまた体液を吐く。何回くらいイったんだろう、いつもより感覚が敏感だ。あ、あ、また出る、止まんね、ぇ。
最後の一滴まで絞り出そうとするみたいにルートヴィッヒの手が動く。止めて欲しくて腰を捩るけど、深々と突っ込まれた今の体勢じゃ墓穴を掘るだけだった。自分の動きのせいで予期しないところが擦られて、得も言われぬ刺激に喉がのけ反る。
「んァあっ、ふぁ、あぅんぅぅぅ?!」
「もっとそうやってキツく締めて、いろっ」
「ひぎっぃぁあっ、アッ、ぁは、ひあぁあああっっ」
「………、…っく…」
窘めるみたいに尻を打擲されて、痛みにきゅうっとアヌスが窄まった。その瞬間を狙い済まして送り込まれる腰、結腸は亀頭の半ば程までを飲み込まされる。
それから、奥の奥に熱い精液が、注ぎ込まれた。何回かに分けて吐き出されるそれは半端な量じゃない。女だったら絶対一発で孕まされてる。目を白黒させながら、俺はぞくぞくと悪寒に身を震わせる。
絶対こんなんじゃ終わらない。いつももっと一杯、中に出されるし飲まされる。だからこれはほんの始まりに過ぎないんだ。これからが本番。
そっと背後に視線を滑らせると、ルートヴィッヒは実に猟奇じみた表情で唇を湿していた。
20000hit企画