※唐突にパロ。奴隷×ご主人様です。






 薄暗い部屋の中、鎖に繋がれた者たちは一様に無気力な顔をしていた。今回もめぼしい奴はいないか。俺は落胆の溜め息を漏らしてくるりと踵を返す。好みのがなかなかいないのなんか分かっている、けどこうも外れが続くと気分も落ち込むってもんだ。
 どっかにこう、落ちてねぇかな。生意気な目をした俺好みの──。
 ふっと目の端に人影が映る。そんなところに何かいたような覚えはないんだが。視線を動かす、小汚ない廊下の奥に目を遣る。そこにそいつは、いた。
 拘束具でキツく体を縛り付けられて、床に身を横たえている。ぞくりと背筋が震えるのが分かる。こんなこちらを食い殺しそうな目をしたのを見るのは、いつ振りだろう。
 口の端が吊り上がるのを感じながら俺はつられるように足を動かす。硬質な靴音にそいつはぴくりと僅かな反応を見せた。ゆっくりと動いた顔が、俺の方に向く。意思の強そうな瞳が俺を見る。
 頭を擡げたのは意外にも、嗜虐欲だった。こいつを虐げて屈伏させてやりたいと凶暴な欲求が牙を剥く。
 くっと笑みを零して、俺は間近で足を止めた。床に転がされているそいつの顎を爪先で捉える。顔を上げさせると碧眼はあからさまに険を孕んだ。堪らなくぞくぞくする、何ていい目してやがる、こいつ。
 にいっと笑って爪先を外す。こいつにとっちゃエラくご愁傷様な話だが、俺はこいつがいたく気に入った。となれば買い上げない訳には、いかないだろう。どんな声を上げてどんな顔をするのか、楽しみでならないな。
 口を塞がれていなければ悪態の一つや二つ吐いただろうそいつをひとまず放置して、俺は久々の買い付けに取り掛かった。



 売れるような状態じゃあないと散々に難色を示されたが、その辺りは額の上乗せでどうにでもなった。
 売れるような状態、つまり他の奴らのような無気力で味気ない状態のを誰が欲しいと思うんだか。取り敢えず俺は贈られても受け取らない自信がある。そんなのはいらない。欲しいのは、飢えた肉食獣みたいな奴だけだ。そう──こいつ、みたいなの。
 俺の足元にはさっきの奴が床に転がっていた。そのまま持って帰ってきたから、見付けた時と同じ状態だ。相変わらずの睨み付けるような視線を、というか俺を思い切り睨み付けている。俺は目の前に座り込むと、噛まされているギャグを外してやった。さて、どんな言葉が飛び出すのやら。
 と思ったところで、べしゃりと頬に水の感触。血の混じった唾液が重力に従って肌の上を伝い落ちていく。あぁ思った通り、いい態度だ。
 俺はくふくふ笑って、徐に足を上げた。そのまま下ろして床に顔を叩き付けてやる。鈍い音と共に呻き声が上がるが、まぁこれくらいじゃ死なないだろう。ぐりぐり後頭部に靴底をめり込ませながら、俺は優しい声音で話し掛けてやる。

「好きだぜ、お前みたいな奴。名前くらいあるんだろ、教えろよ」
「………」
「聞こえてんだろ、なぁ?」

 答えは返ってこない。
 俺相手じゃ喋りたくもないってか。つくづく強情な奴。その態度がますます俺の気分の高揚を煽る。
 どういう経緯であの悪名高い奴隷商のところにいたのかは知らないが、本当に、巡り合わせに感謝したい。日頃の行いがいいからな、俺様。それくらいの見返りがあっても不思議じゃないんだが。
 俺は鼻歌でも歌いたいような気分で頭に乗せていた足を退ける。それから髪を持って俯せになっている体を引き起こさせた。ぶちぶちと髪が抜けるのが痛かったか、途中からは体のバネを使って自分で身を起こしてくる。
 再びお目見えした顔には血化粧があった。床に突っ込んだ時に額でも切ったんだろう。男らしい容姿をしているだけに、それは非常によく似合っている。男らしいと言えば体格にしたってそうで、胸板なんか俺の1.5倍はありそうな感じだ。粗末な服で隠されているが、腹筋とかだってきっと凄いんだろう。羨ましい。正に男そのもの、どっかの彫刻みたいな体しやがって。何かにつけて刺激されるコンプレックスを俺は押し込める。
 今はそんなことどうだっていい。したいことはただ一つだけ、相手に拒否権はない。床に座らせた奴の服をぞんざいに剥ぎ取る。現れた体は想像通りな上に均整が取れていた。
 ムカつく、と同時に、ムラっとくる。俺はぺたりと膝をついて、当然反応なんか全くしていないペニスに顔を寄せる。何の躊躇いもなく口に含むと、こいつも流石にびくっと体が跳ねさせた。

「な、に…してるっ」
「フェラ。見れば分かるだろ?」

 何だ喋れんじゃん。喋れないのか、下手したら言葉通じてないのかと一瞬思ったのに。べろぉっと裏筋を舐め上げると少しだけ反応が返ってくる。俺のテクをもってして勃たない奴なんかいないね。
 ありとあらゆる手を使ってガチガチにさせて、そのまま美味しく頂いてやった。歯食いしばって必死で感じないようにしてんのが妙にそそったから、たっぷり搾り取ってやったのは言うまでもない。


◆ ◇ ◆


 俺の主人というのは、実に変態であると思う。
 それは普段の格好からしても明白だ。身に纏うのはいつも華美なドレスで、靴も大概ヒール。銀髪は腰の辺りまで伸ばされていて、体の細さと相俟って女に見えないこともない。だが彼は声も口調も完璧に男だし、何よりよく見れば細い体のラインが骨張り過ぎている。あんな女はいない。そう断言出来るが、俺は同時に彼の性に疑いを抱いていた。本当に男なのだろうか、と。
真実男であるなら、どうしてあんな風に、乱れられるのだろう。俺には分からない。恐らくどれだけ考えても一生分からないに違いない。
 はぁ、溜め息を吐いて寝返りを打つと、首元で微かな音が鳴った。何かする度に小さな音を立てるそれは、首輪だ。質のいいエナメルにつけられた銀のプレートには「ルートヴィッヒ」と、俺の名前が刻み込んである。
 いつどこで名前を漏らしたものか、実のところ俺は覚えていない。あの気の遠くなるような数日間のうちだろうとは、思うのだが。奴隷商に売り飛ばされて、そのほぼ直後に買い取られて。出会った当初から傲岸不遜だった主人は、その上に女装癖のある間違うことなき変態だった。そんな人に不覚ながらも飼い慣らされた俺は、現在奴隷なのかペットなのかよく分からない待遇で囲われている。
 今いるのは与えられた部屋で、あの人の屋敷の一室だ。俺を床で寝せるつもりか、という訳の分からない理由と共に使えと命令された。そうされては拒める筈もなく、俺はこうして高級なベッドに寝転んでいる訳だ。
 さっきから寝ようとしているのだが、何故か目が冴えて眠りに落ちることが出来ない。いつもかなり気紛れにやってくる主人も、今日ばかりは絶対に訪れないと分かっているのに。この屋敷に帰ってこないのだから、この部屋に来れる訳がないのだ。そう思って彼の来訪を待っているようだと感じた。
まさか、そんなことがある筈はない。俺はあんな風に、他の奴らのように主人に心酔などしていない。だからあの人は俺を構って反応を楽しんでいるのだ。物珍しいから、理由なんてただそれだけ。
 どれだけぼんやりと天井を見つめていたのだろう、気付くと少しうとうとしていたらしかった。そうと分かったのは、微睡んでいた意識が浮上したからだ。廊下を歩く足音を耳は捉えていた。毛足の長い絨毯にほとんど吸収されてしまうのだが、聞き慣れたものならよく分かる。静かに歩く気などまるでない、けれどどこか洗練された足運びが優に想像出来る。
 あぁ、と俺は小さく息を漏らす。帰らないと言って出ていった癖に、どうしたってこんな時間に足音を響かせているんだ。全く、相変わらず行動の読めない人だ。
 きぃっと静かに扉が開かれる。中の様子を窺うなどということはせず、彼はずかずかと足を踏み入れてきた。

「……ギルベルト」
「抱け、ルッツ」

 そして第一声がこれだ。何というかもう、救い難い。
 そもそもこの人は実に主人らしくないのだ。俺にこんな部屋を与えるわ、一緒のベッドに寝るわ、剰え自分のことを呼び捨てにさせるわ。他の奴には絶対にしないのに、何だこの特別扱いは。一体何を考えているんだか、俺には全く理解出来ない。
 俺の渋面など素知らぬ顔でベッドに乗り上げてくるギルベルトは、自分でドレスの胸元を開いて裾をたくし上げる。既に乳首はツンと硬く尖っていて、ペニスも下着の中で頭を擡げていた。いつからこんな風にしているのだろう。どうしようもない人だ。
 俺がなかなか動かないでいると、ギルベルトはむっとした顔で手を伸ばしてきた。相変わらずの早業で服を剥がれ、ペニスにむしゃぶりつかれる。何人を咥え込んだものか、ギルベルトのテクニックというのは並大抵ではない。そんな気分でなくとも体は反応し、瞬く間に欲情する。
 俺は上体を起こして、イヤらしく蠢く舌を離させる。唾液と先走りに塗れた唇を奪うと、ギルベルトは嬉しそうに目を細めた。こんなことが許されるのも、俺くらいのものだ。そのまま口付けながら、下着の上からペニスをなぞってやる。俺の手に腰を押し付けるようにしてギルベルトは甘い声を上げた。

「ふぁ、あ…ルッツぅ…」
「どうしたんですか、こんなにして。それに今日は帰ってこないのでは?」
「うるさ、ぁ、あ…いいからお前は黙って俺を抱けばいいん、んぅっ」

 乳首に歯を立てるとギルベルトはびくっと体を強張らせる。だが表情は蕩けたままだ。口で乳首を弄りながら手でペニスを絶頂に追い上げていく。
 奉仕を嫌だと思わなくなったのはいつからだったろう。こうして明け透けに欲求を解消するのを命じられて、不快に思わなくなったのは。俺の体は寧ろ、早くこの人を犯したくて堪らないようだった。一度知ってしまった強烈な快楽というのはなかなか忘れられないらしい。
 は、と荒い息を吐くとギルベルトがくふりと笑った。絹の繊細なレースに包まれた足が動いて、俺のペニスに押し当てられる。軽く擦られるとそれだけでそこは硬度を増す。既に硬くなり過ぎて痛いくらいだった。
 上機嫌に表情を緩めるギルベルトは、甘く蕩けた声で絶対の命令を下す。俺はそれから逃れる術を、知らない。

「早く来いよ、ルッツ…お前も挿れたくて堪らねぇんだろ?」

 面積の少ない布地をずらした指が、誘うようにアヌスを開いてみせる。時折きゅうっと収縮する粘膜は、正しく貫かれるのを強請っていた。ごくりと喉を鳴らして、俺は先端をそこに押し付ける。熱く潤むアヌスは淫らに口を開いてペニスを飲み込んでいった。
 びくびくと体を震わせたギルベルトは、俺の肩に手を回して抱き着いてくる。動きを阻まれるような格好だが、彼にそれ程の力はない。それにそんな意思も、ない。
 俺は構わずに腰を掴んで動き始める。

「あっ、ぁ、アあぁ、ルッツ…もっと、」
「もっと、どうして欲しいんですか?」
「激しく、して…訳分かんなくなるくらい、いっぱい」
「…畏まりました」

 腰を掴み直して奥まで腰を進める。ギルベルトは息を詰めて、抱き付いてくる力を強くした。
 何か、あったのだろうか。この人の行動パターンは、連れ回されて側にいるうちに大体掴めた。本当にこの上なく機嫌がいいなら、大概自分で勝手に盛り上がって乗って喘いで、する筈だ。こうして俺を煽って身を投げ出して好きにさせるのは、ほぼ確実に、嫌なことがあった時。まるで俺が自分を壊してしまうのを期待するように、ギルベルトは何の躊躇いもなく体を差し出してくる。
 それが、解せない。請われればそれこそこの華奢な首を折ることなど容易い。息の根など一瞬で止められる。けれど、彼はそれを望まない。熱に浮かされたように破壊されることを願って、俺に身を委ねて、最終的に意識を飛ばして。いつも願望は果たされずに終わる、その方法を選ぶのは彼自身だ。
 何を求めているのやら、俺には分からない。ギルベルトも言う気はないのだろう。だからいつものように振る舞う。心中に疑念という蟠りを残し、ながら。

「ひ、んんっ! …こ、そこ、い、いい…気持ちイイ、ふぁっ」
「ギル、ベルト…っ」

 キツい締め付けに俺は息を吐いた。抽挿の度に粘膜はイヤらしい音を立てて絡み付いてくる。俺は搾り取るような動きに持っていかれそうになりながら、細い腰に自分のそれを叩き付ける。ともすれば本当に壊してしまいそうだと思う。白い肌、細い体、特徴だけ挙げていけば誰もが女と勘違いするに違いない。そうでないことは下肢を見ればすぐに分かるのだが。
 ふと目を落とすと、ギルベルトのペニスは濃い体液を垂れ流していた。既に下着はどろどろになってしまっている。ドレスもお釈迦、だろうな。まぁ困りはしないし、俺が咎められることもないから良しとする。
 窮屈そうなペニスに手を伸ばすと、ギルベルトは期待に目を潤ませた。言外の要求、気付かない振りは許されない。ぐっと竿を握り込めば甲高い啼き声が放たれる。

「は、ぁ、あああんッ! ルツ、ルッツぅ!」

 どろりと吐き出される精液は布地に染み込めず零れていく。こんな状態だと、もう何度かイっているのかもしれない。俺の主人は実に、耐え性のない人であるから。
 布を押し込むように尿道に爪を立てると、ギルベルトは激しく身悶えた。半開きになった口から唾液が伝い落ちる。それを舐め上げると、ゆるりと動いたギルベルトの手が首輪を引いた。無理矢理に顔を近付けさせられる形で唇が触れる。入り込んできた舌は熱く絡んで唾液を混ぜ合わせる。
 紅い瞳はくぅっと細められて、さも嬉しそうに笑んでいた。その表情に見入られる。逃れられなくなる、より深くに囚われる。分かっているのに視線は外せない。
 それは決して、許されないから。

「出していいぞ…奥にたっぷり、な?」

 呼吸の合間、耳元に囁き掛けられる言葉は許可というより最早、命令に近かった。俺は僅かに顎を引いて応じる。
 ギルベルトは首輪を離してまた肩に腕を回してきた。ひたすらに絶頂を目指す律動は容赦なく彼の痩身を揺さぶる。奥へ奥へと腰を突き入れるのはそう請われたからで、それが己の欲求でもあったからだ。体の奥深くに繋がっていた証を残す。その行為は少しだけ、俺の心の何かを満たすような気がした。
 息を乱すギルベルトは何度も達して、その度にキツくアヌスを収縮させる。忍耐はさっきから限界に近い、俺は息を飲んでぐっと腰を押し付けた。

「、ん……っく…」
「あ、ぁは、なか出て…ルッツの、出てるぅ…」

 とろりとした顔に浮かべられるのは極上の微笑みだ。至福の表情につられてこちらも僅かに口元が緩む。それを視認しただろうか、ギルベルトの体からふつりと力が抜ける。
 気を失ってしまった彼の長髪にそっと唇を寄せる、そこからは嗅ぎ慣れない香水の匂いが、した。


◆ ◇ ◆


 ギルベルトの体を清めるのは、仕事というよりも習慣になってきていた。身に着けているものを全て脱がせて湿らせた布で汚れを拭き取っていく。
 そうしながらルートヴィッヒは彼の髪を一房掬う。顔を寄せれば感じるのは、やはり嗅いだことのない匂いだ。誰かの移り香なのだろうか、甘い香水の匂いがする。人工的な香りは好かないと常々言っているから、自分からつけたものではないのだろう。とすれば、この匂いの主が主人の不機嫌の原因なのか。どこに誰と会いにいくと言っていたのだったか。
 ルートヴィッヒは今朝の記憶を探り始めている自分に失笑する。そんなことを思い出して相手を知って、一体何になるというのだろう。この関係は揺るぎようもないのに。口を出せる筈も、ないのに。自分はただ彼の側にいて、彼に請われたことを忠実に熟すだけの存在だ。不要になれば捨てられる、その程度の。
 溜め息が漏れる。やはりこの人は解せないな、とルートヴィッヒは思った。
 何の為に女の格好をして、何人も奴隷を囲って、こうして体を開くのか。本当に、訳が分からない。彼には男としての矜持は存在していないのだろうか。それとも男を受け入れるのはそんなにも、心地好いものなのだろうか。
 考えても答えが出る筈もない。何にせよ、余り甘やかさないで欲しかった。奴隷として買い入れたなら、それ相応に扱うべきだ。でなければ。

「錯覚、してしまいそうになる…」

 呟いた声は意外にも大きく空気を震わせた。ルートヴィッヒは慌ててギルベルトの様子を窺うが、目覚めるような気配はない。そのことにホッとしながら自分の身も清め、布を片付ける。それからベッドに横たわった。
 眠る主人の隣に入り込むというのは、やはり違和感を覚える行動だ。だが彼がそうしろというのだから、ルートヴィッヒには拒否権がない。風邪を引かないようにと布団を引っ張り上げると、もぞりと動いたギルベルトが擦り寄ってくる。犬や猫が飼い主に懐くような行動に頭を抱えながら、ルートヴィッヒは目を閉じる。主人がこれでいいというのなら、何も間違ってなどいないのだろう。






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