※いきなりパロ。






 ギルベルト・バイルシュミットというのは実によく、喋る。こちらの気分などお構いなしで、何だかんだと話題を差し向けてくる。それは大概世間話のような他愛ないものだったが、ごくたまに、そう、聞き逃せない話題もある。例えば今この時、この話題のような。
 ギルベルトにしてみれば、何の気もなしに出した世間話の延長線上だったのだろう。けれど俺はそうは捉えられなかった。
 裁かれ刑を終えて、俺は罪を償ったことになっている。この国の手続き上では。俺の中では、罪の意識など少しも消えてはいないのだ。それは寧ろ日々存在感を増していくようでさえある。そうして俺を苦しめる。あいつの声が、まだ耳に残っていて、消えてなどくれなくて。
 あぁ吐き気が、する。

「やっぱ信じらんねぇよなー。お前本当にこんなんやったのか?」

 ひらりと揺らされるのは、ギルベルトが手にした紙。事務手続きの参考にと集められた、俺の資料。先程、風呂上がりに電話が入って、他の奴のものを出した時に一緒に出てきたらしい。そんなものを持って、スラックスを引っ掛けただけの状態で来るなんて、全くどうにかしているとしか思いようがない。いくら夏とはいえ、男同士とはいえ、そんな無防備な格好で。
 安心し切らないで欲しいと、思う。ギルベルトは俺の犯した罪を知りながら、自分に害が及ぶ可能性を全く考えていない。それは単に浅慮なのか、俺が完全に更生していると信じているからなのか。よく喋る割にそういうことは言わないから、俺には判断がつかない。
 ぼんやりと彼を眺めていた筈の目はいつの間にか、しっかりとその細部を捉え始める。意外な線の細さだとか、滑らかそうな肌だとか、そういうものを。赤みがかったアメジストの瞳は好奇心旺盛な猫のようによく動く。毛質が固めな髪は透き通るようなプラチナブロンドだ。精巧に作られた人形じみた外見が、中身にそぐわなくどこか滑稽に映る。
 それは出会った当初にも思ったことだった。こんな外見で、こんな中身で、しかも保護司だなんて。剰えギルベルトは俺の身元引受人になって、自分の家に住ませている。
 笑えない冗談だとしか思えない。自分が世間に──少なくとも俺に、どう見られているか気付くべきだ。でなければ危険に、過ぎる。

「どうした、ぼーっとして。体調悪いのか?」

 ひょい、とギルベルトが顔を覗き込んでくる。距離がやけに、近い。手が伸ばされた拍子にふわりと髪からシャンプーの匂いがして、俺はつい、ギルベルトを力づくで引き寄せていた。
 自分が腰掛けていたベッドに、ギルベルトの背中を押し付ける。ギルベルトはきょとんとして、顔を覗き込んできた時と同じ表情のまま、俺を見つめている。
 無防備な喉元、抵抗を占めそうともしない手に、俺はぎりりと歯を噛み締める。どこまで安心しているというのだ。こんな風にされてもまだ、何も感じないのか。まだ、分からないのか。俺が毎日どんな思いで、お前を。

「ルッツ?」

 投げ掛けられた声にがさがさと耳障りなノイズが掛かる。俺の脳は何年も前のあの時のことを鮮明に蘇らせる。
 ──ルッツ。
 あの時もあいつはいつものように、そうだ、いつものように笑って。
 ひゅ、と喉が痙攣するような音を立てた。俺はギルベルトを組み敷いたまま、深く息を吐く。いつの間にか随分と息が上がっていた。
 落ち着かなくては。それで、ここから退いて、ギルベルトに謝らなくてはいけな、い。本当に? 出来るのかそんなことが。こんなに美味しそうな餌が目の前にある状態で、そんな、こと。
 一度思考がそちらにシフトしてしまうと、抑えることは難しくなる。突き上げる衝動は理性など簡単に砕いて、獣じみた欲望を爆発させる。
 逃げてくれと言いかけて、だが俺は言い淀む。この状態の自分が彼を逃がすとは、思えなかった。逃げられれば余計に、酷くしてしまう。その考えが俺に口を噤ませ、言葉を音にしなかった。
 済まないと、そっと口の中で呟く。どうしても耐えられない。俺は、ギルベルトを、目茶苦茶にして、やりたい。その欲求はいつからか心の奥深くに芽生えて、根を張って、枝を広げ葉を生い茂らせていた。抜いてしまうことも切り倒すことももう、出来ない。

「俺はお前が思う程善良な人間じゃない」

 吐き捨てるような呟きに、ギルベルトはまだ真っ直ぐな視線を変えなかった。何も恐れず疑っていない目、それを怯えさせ乱してやりたくて堪らない。
 だから──だから俺は、ギルベルトのスラックスを彼の脚から一気に引き抜いた。下着のゴムに指を引っ掛けたところで、漸くギルベルトが慌て始める。もう手遅れだということを、分からせてやらなければ。
 そう、こうして、な。

「ルッツ…何、して……ひっ?!」

 喉元に噛み付くと、引き攣った悲鳴が上がる。深いアメジストの瞳に微かに恐怖が宿ったのを、俺は敏感に察知した。うろたえて視線を彷徨わせるのが、どうしても俺を煽っているようにしか見えない。それは俺がこの状態であるからだろうか、それとも、この状態でなくともそう思っただろうか。
 下肢に手を滑らせるとギルベルトはびくりと体を跳ねさせる。逃げを打とうとする体を、俺はしっかりとベッドに縫い付けた。手近に放られていたベルトを巻き付け、頭の上で固定させる。ギルベルトが藻掻く力は弱々しく、俺を押し退けられるようなものではない。
 だから俺はそのまま、喰ってしまう。喰らい尽くしてしまう。愛しさに比例して、破壊の願望は強まっていく。

「ばっ、やめ…止めろっ!」

 声だけはいつも通り、強気で張りがある。だがそんな顔で言ったって、怯えていることの証明にしかならないな。そしてそれは、俺をこの上なくて興奮させる。
 下着越しに弄ってやると、最初は嫌がって声を荒げていたギルベルトも、次第に甘い吐息を零し始めた。それでも罵声は飛んでくるが、そんなものはほとんど耳に入らない。こういう時、俺の五感は都合の悪いものは全て取り零してしまう。あぁ、眉根を寄せて悩ましげな顔をしているのが実に可愛らしい。目尻に涙まで浮かべているのは、もどかしくて堪らないからだろうか。
 俺はともすれば零れ落ちてしまいそうな滴を舌先で掬いながら、下着の中に指を忍ばせる。触れたペニスは完全に反応し切っていて、先走りさえ溢れさせていた。指を絡めて軽く扱いてやると、嬌声は格段に跳ね上がった。随分と感じ易い体だな。頬を染めて身悶えて、イヤらしい。もう誰か咥え込んだことがあるんじゃないだろうか。

「ル、ツ…! いい加減に、し、んぁあっ…ぁ、」

 口ではどうこう言いながら、刺激を弱めるとせがむように腰が擦り寄せられる。俺は悪戯に乳首を弄びつつ、ぐちぐち音を立てるペニスを追い上げていく。よさそうな反応をするところを執拗に攻めれば、ギルベルトはあっけなく吐精した。
 きゅうと縮こまって硬直した体が、指を体液が濡らすのと共に脱力していく。とろりと蕩けた目は興奮で血が上っているのか、いつもより幾分か赤が強いように見える。その不思議な色合いに俺もより興奮させられた。
 早く早くと急く気持ちを宥めすかして、ギルベルトの下着を脱がす。出来るだけ傷付けたくないから、せめて、少しだけでも。精液に濡れた指をアヌスに触れさせると、ギルベルトはぎくりと体を固まらせる。見上げてくる瞳は哀願の色を宿している。残念だがそれは逆効果だ、ギルベルト。

「っ! うぁ、あ、ああ!」

 中は熱く、キツかった。指先を含ませただけなのに、ぎちぎちと食い千切られそうな程に締め付けてくる。動かす度に息を詰めるのが如実に分かって、自然と口元に笑みが上る。
 ギルベルトは感じたことのない異物感に必死になって耐えているようだった。半開きの唇がはくはくと忙しなく呼吸を繰り返している。
 俺は見るからに辛そうなのをお構いなしに、ずぶずぶと指を埋めていく。こうしておかなければ後で泣きを見るのはギルベルトの方だ。精液の滑りを借りて何とか1本は入ったものの、この調子ではすんなりと先には進めないだろうな。思いながら腸壁を撫でるようにぐるりと指を動かす。ぞわぞわっと体を震わせたギルベルトは頭を振り、シーツに涙を散らした。
 好き勝手に遊ばせていると体は少しずつ順応の気配を見せてくる。ギルベルトも微かに余裕が出てきたようで、すんすん言いながら口を開く。顔は泣き濡れてぐちゃぐちゃだった。

「腹ん、なか…気持ち悪いぃ……やだ、ルッツ、ゆび、指抜けよぉ…っ」

 上手く回らない舌で紡がれる言葉はやけに子供っぽく艶めかしい。その衝撃に、ごくごく微量に残っていた俺の良心やら思いやりは、遥か彼方に吹き飛ばされてしまった。何だ、何なんだこの人は。そんなに酷くして欲しかったなら最初から言えばいいものを。
 変に力の入った脚を体の方に折り曲げて、大きく足を開かせる。全てを明かりの下に晒される羞恥心からか、ギルベルトはぼぼっと赤面した。じたばた足を閉じようとするのを、俺は間に自分の体を入れることで防ぐ。それからゆっくりと、指を引き抜いた。要求が聞き入れられたことで、ギルベルトの体からほっと力が抜ける。
 だが彼が安堵出来たのは一瞬だけだった。

「いっ、ひぁあ、ぁ、アあぁあああ、あ、あ、あッーー!」

 無理矢理に押し入ったアヌスはやはり、狭い。
 がくがくと痙攣する脚を押さえ付けて全て含ませ終える頃には、ギルベルトは意識を飛ばしてしまっていた。ぬるりと滑る感触は、恐らく血だろう。やはり切れてしまったか、そうは思えど止める気は更々ない。腰を揺らすと苦鳴を上げてギルベルトが目を見開いた。

「や、いた、いたぁあっ! やだ、やめておねがっ…!」

 縛られた腕、藻掻く指が必死でシーツを掴む。少しでも痛みを逃がそうとしているのだろうか。頬を伝う幾筋もの涙にべろりと舌を這わすと、危うく耳に噛み付かれそうになった。全く、可愛らしい人だ。
 にこり、俺は笑って、思い切り奥まで突き上げてやる。ギルベルトは甲高い悲鳴を上げ、また意識を飛ばしかける。それを更なる追撃で引き戻し、また追い詰めて、俺は散々に狭い胎内を犯し尽くした。気紛れにペニスを弄ってやると、ギルベルトは戸惑った声を上げながら何度も精を吐き出す。正体を失くして泣きじゃくるのが可愛くて愛しくて、何度も何度も深く口付けた。
 自分から舌を絡めてきてくれるようになるのに、そう時間は掛からなかったように思う。その頃にはシーツはどろどろで、かなり使い物にならなくなっていたが。俺は汗で張り付いたギルベルトの前髪を掻き上げて、その額に軽く口付ける。くすぐったそうに目を細め、ギルベルトが甘い声を上げる。

「あ、ぁっ、ふぁっ…ルッツぅ」
「ギルベルト、」

 強請られるままに口内に舌を差し入れ、互いの唾液を絡ませ合う。そうしながら俺は、随分と解れたアヌスの最奥に、汚れた欲望の塊を注ぎ込んだ。



 シャワーを浴びて部屋に戻ると、あの後気を失ってしまったギルベルトが目を覚ましていた。俺を見留めた彼はちょいちょいと指を動かして、自分の方へと呼び寄せる。俺は主人の命令を受けた忠犬のように素直にそれに従い、ベッドに腰掛けた。
 ギルベルトはぐったりと疲れた様子で、けれど俺を鋭い視線で見据える。瞳の色は赤みがかったアメジスト──最中の名残は窺えない。
 口を開かれる前に俺は先手を打った。

「……済まない。訴えるなり何なり、好きにしてくれ。お前にはその権利があ」
「、んなこと」

 言い終わらないうちに、ギルベルトが声を被せてくる。わなわなと震えている体はどう見ても憤慨しているようだ。怒らない奴など、この地球上どこを探してもいないに違いない。いきなりあんなことをされて、怒らない奴の方がおかしい。
 俺は突き付けられるべき言葉を待つ。最初にギルベルトへの感情を自覚した時、いずれはこうなってしまうと分かっていた。だから特別な感慨はない。ただ来るべき時が来てしまったと、思うだけ、で。

「んなこと出来る訳ねぇだろうが!」

 ギルベルトの口から飛び出した言葉は、考えもしなかったものだった。俺は呆気に取られて反応することが出来ない。出来る訳ない、なんて、そんなこと、どうして。
 固まってしまった俺に盛大な溜め息を吐いて、ギルベルトがもそりと体を起こす。途端に思い切り顔を引き攣らせたのには、非常に申し訳ない気分になった。いや、何もあんなに激しくするつもりはなくてだな。あんまりにもギルベルトが可愛いからつい、その。
 視線を逸らす俺の顔をがっと掴んだギルベルトに、正面から見つめられる。不機嫌そうに寄っていた眉が、次第に困ったような表情を作り始める。泣き出してしまいそうな気配さえ漂わせるものだから、俺は慌てた。が、どうしていいやらさっぱりわからない。下手に動くことも出来ず、ギルベルトを見つめ返すばかりだ。

「あんな顔する奴に、そんなこと、出来る訳ねぇだろうが…っ」

 ギルベルトの声は僅かに震えていた。顔を掴んでいた手がするりと離れ、そのまま下がって体に回される。力を込められて、胸に顔を埋められて、抱き締められるような形に、俺は戸惑いを隠せない。

「ギル、ベルト?」
「お前絶対、絶対俺の手で更生させてやる! そんでそんな顔、出来ないようにさせてやる!」

 もう決めたから譲らねぇ、ギルベルトはそう言い切る。その肩もやはり僅かに震えている。喉が嗚咽を漏らすのを耐えているのが分かったが、俺は何も言わなかった。返事の代わりに、恐る恐る肩を抱き返す。
 びくんっと体を跳ねさせたギルベルトは、それでも振り解こうとはせず、腕に込める力を強くした。






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