※打ち間違いとかじゃなく本気で英米ですので苦手な方はご注意を。






 あぁ、どうしてこんなことになっているんだろう。俺は今日自分がやったことを思い返していた。
 アーサーの家にいる時にいつもしていること以外には、何もしていない筈だ。ご飯にケチつけたり、いちゃいちゃしたり、紅茶飲んだり、いちゃいちゃしたり、一緒にDVD見たり。この手のトラブルが起きそうなことなんて、本当に何もして──…ぁ。
 いやいやいや待て待て、した、かもしれない。アーサーの部屋の机に置いてあった飴が美味しそうだったから、口に放り込んだんだ。彼の幻覚たちに関わりがないものなのかどうか、確かめもせずに。ジーザス何てことだい、それでこんな目に遭うとか洒落にならないよ!
 俺は今、強い塩の匂いを感じていた。吹き付ける風はザラザラとしていて生温い。地面が揺れているのは、俺がへたり込んでいるのが実際は地面じゃなくて、床だからだ。航海の真っ最中であろう船の、床。目の前には粗野な感じの男たちが迫っている。
 逃げないと何がなんだか分からないけど取り敢えず逃げないと。そう思うのに、普段の生活からは想像もつかない不思議現象にビビった体はちゃんと動いてくれなかった。こんなのより菊が本気で怒った時の方が百倍怖いよ! だから動いてくれ脚、この俺が頼むから。
 男たちと俺との距離がどんどん縮まる。体は一向に動いてくれる気配を見せない。いい加減にしてくれよ、竦んでる場合じゃないって言ってるじゃないか。

「…てめぇ、見ねぇ顔だな。どこから入り込みやがった」
「ぇ、えーっと…」

 至近距離で凄まれて自然と腰が引ける。何だいこの往年の不良みたいな絡み方は! 大体君たち服が古臭過ぎるよ、それは5世紀くらい前の格好じゃないか。しかも。

「おい、んなとこに固まって何してる」

 俺の思考は飛んできた張りのある声に中断させられた。
 え、この声って、もしかして。
 船長、いやこいつが、そんなことを口々に言いながら、男たちがやってくる人物の為に場所を開ける。両端に退いた人の波の向こう、立っているのは…どこからどう見ても、アーサー、だった。けど何かが違う。彼は俺の知ってるアーサーじゃあないと、全ての感覚が叫んでいる。
 あぁ、ねぇ、アーサー。何で君は倉庫に仕舞い込んであった肖像画の服みたいなの着てるんだい。まるで海賊の船長みたいだよ、それ。俺はドッキリだって、そう言って欲しいんだぞ。

「へぇ、珍しい格好してんな、お前」

 ヤンキー座りで目線を合わせてきたアーサーが、ギラつく翠の目で顔を覗き込んでくる。革の手袋に包まれた手が伸ばされて、ぐいと顔を上げさせられた。視界一杯に広がる、知らないアーサーの、顔。俺の知ってるアーサーだって凄めばそれなりに怖いし、視線だって鋭くなる。けど、目の前のアーサーは、まだそんな様子を見せない。普通の表情で態度なのに、こんなにも、威圧される。
 アーサーに対して恐怖らしきものを感じたのは、もしかしたらこれが初めてかもしれなかった。いつもは怖がって見せたりしつつも、アーサーは俺のことを本気で傷付けられないって分かっていたから怖くなかった。
 けど、このアーサーは。俺の知ってるアーサーじゃない。このアーサーは、俺のことを簡単に、痛め付けられる。
 ぞっと体中に悪寒が走る。何なんだい、何なんだいこれ。一体何が起こってるんだよ、どうせ君のせいなんだろ早く助けてよアーサー。全力で現実から目を逸らしながら、それでも俺はアーサーの顔から目を逸らせない。
 じいっと俺を見つめていたアーサーは、気が済んだのか顎を掴む指を離した。代わりに鼻先が寄せられて、すん、と匂いを嗅がれる。な、犬じゃないんだから!

「この匂い…あいつらに悪戯でもされたのか?」

 口の中で呟かれる独り言。
 あいつらって、君の見る幻覚のことかい、アーサー。多分十中八九そのせいなんだぞ。だから俺の反応を見て遊んでないで早くどうにかしてくれよ。というか君、本物のアーサーなのか偽者のアーサーなのか知りたいんだけど。偽者だったら早くどうにかしろって言っても意味ないし。
 眉根を寄せて考え込んでいたアーサーは、暫くすると溜め息を吐き出した。俺にまた視線を向けて、くぅっと、嫌な笑みを浮かべる。自分の口元が盛大に引き攣るのを俺は感じた。凶悪過ぎるんだぞ、その顔。俺に向けるような顔じゃない、本当に、このアーサーは俺の知ってるアーサーじゃないのか、も。

「って、ちょっと、君何するんだい下ろしてくれよ…!」
「あ゛? 海に叩き落とされてぇのか」

 ひょいっと抱え上げられて、肩に担がれた。あんまりにもあっさりそうされたことに驚きながら、俺はジタバタ暴れる。けど、アーサーの一言ですぐに黙り込んだ。
 海に落とされたい奴なんている訳ないじゃないか、君は馬鹿なのかい?! 何だよ何で俺のこと軽々抱えられるんだよ。もう抱っこは無理だな、とかつい最近寂しそうに言ってたじゃないか。のびのび育って嬉しいとも。
 なのに、なのに! 酷いよアーサー、もうこの際外見が君ならどんな君も君だよ! 俺をどこにつれていくつもりなのか今すぐ教えて欲しい。それから俺のいるべきところに返してくれよ。こんなやけにリアルな海賊ごっこに付き合ったりなんかしたくないんだぞ。
 男たちの声を完全に無視してすたすた歩いていくアーサーは、暫くしたら足を止めた。ちょっと立て付けが悪くなってるドアを開ける音がして、それからまた歩みが再開される。目が捉えるものが変わったことで、部屋に入ったんだってことが分かった。やけに高そうな調度品が並ぶ、船長室とか、そんなんだろうか。
 またぴたりとアーサーが足を止めて、俺は乱暴に投げ落とされた。固い革張りのソファに強かに体を打ち付ける。

「なっ、何す」
「一々ぴーぴー煩ぇな、黙らねぇと口塞いじまうぞ」

 苛付きを隠そうともせずに吐き捨てて、アーサーがソファに片膝を乗り上げてくる。俺は色々なものの衝撃で呆然としていて、それを眺めていることしか出来なかった。
 信じられない、だって、確かにアーサーの姿をしてるのに。声だって、アーサーのものなのに。こんなのは、アーサーじゃ、ない。

「そうだ、大人しくしとけ」

 満足そうに言い放ち、アーサーがシャツに手を掛けてくる。ちょ、君何をしようとしてるんだい一体!
 慌てて手を掴むと、急に不機嫌そうに眉が顰められる。向けられる視線はそれだけで人が殺せそうだ。怖い、怖いよアーサー。舌舐め摺りする肉食獣みたいな顔、しないで欲しい。そんなの見たことないし、格好良いを通り越して本当に、怖い。

「……そんなに縛られたいのか」
「誰がそんなこと言っ…っ、痛!」

 凄い力で手首を掴まれて、頭の上に捻り上げられる。体を捩って逃げようとするけど、アーサーはびくともしなかった。というか片手で両腕押さえ付けるって、余裕だとでも言うつもりなのかい。俺の方が力強いんだぞ! これくらいすぐに振りほどいて逃げ………られない。というか振りほどけない。
 秘密のトレーニングでもしてたのかい君は。って本当に痛い痛い痛いよ!締め上げないでくれよ!涙目で見上げると、アーサーは空いた片手に革紐を持っていた。何する気だよ、ねぇ、本当にさ。
 怯える俺を余所に慣れた手付きでアーサーが紐を手首に回してくる。固く結び目を作られるとそれは腕に食い込んで、暴れたら余計にキツくなって血を止めてしまいそうだった。

「泣いていいぜ、その方が楽しめる」
「ひ、ぁ、ああぁ?!」

 びり、と強い刺激が走って、俺は堪らずに声を上げた。
 見れば手袋を嵌めたままのアーサーの指が、シャツの上から乳首を捏ね回している。抓られるとさっきの刺激が体に走って、意思に反して体がびくびく震えた。にやにやと嫌な笑みをアーサーが浮かべる。
 いつの時代もエロ大使なんだな、君は! 何でこういう展開に持ち込むんだよすぐに。普通事情聞いたりとかそういうこ、と。

「うぁっ…や、あぁ…!」

 するりとズボンの中に手が突っ込まれて、ペニスに指が絡められる。反応していなかったそこは、緩く扱かれると次第に熱を持ち始めてしまう。
 違う、これは感じてるんじゃない。愛撫されたらそうなるのは生理現象だ。俺は感じてなんか、いない。
 くくっとアーサーが喉で笑う。顔が近付いてきたかと思ったら、べろぉと頬を舐め上げられた。目の縁に辿り着いた舌先が粘膜まで辿って、溜まっていた涙が零れる。

「随分躾けられてんだな、ん?」
「ち、が……触るなっぁあああっ」
「違う? もうこんなにドロドロにしてるのにか?」

 手を動かされるとグチグチとイヤらしい水音が上がる。いつの間にかシャツは前を開けられていて、ぷくりと固くなった乳首が晒されていた。
 信じられない、本当に信じられない。アーサーがこんなことするなんて、自分がこんな反応をするなんて。全くどうにかしてる、こんなの。
 好き勝手に動き回るアーサーの指が、奥まったそこに、伸ばされる。遠慮なんて言葉は辞書にないと言わんばかりに無造作に入ってくる、指。そのいっそ清々しいまでの凶暴さに、俺は悲鳴掛かった声を上げる。

「っいぁあ…あっ、あぁ、あー!」

 ぐりぐり粘膜を掻き回されて、不快感と共に何故だか快楽までもが這い上がってくる。
 気持ち悪い。なのに気持ち、イイ。
 強請るみたいに蠕動してしまう内壁に叱咤するように力を入れたけど、それは中の指を締め付けることにしかならなかった。俺の弱い部分を求めて指が探りを入れ始める。そんなところを弄られたら、抵抗どころの話ではなくなってしまう。今でさえ碌な抵抗が出来ていないんだから。
 俺は慌てて脚を使ってアーサーを引き剥がそうとする。こんな体勢で成功する筈がなかったけれど。チッと如何にも鬱陶しそうな舌打ちの後、ぐるりと視界が反転した。目に映るものが天井からソファの座面に変わる。
 俯せにされたのだと分かった時には、まだ解れるとかそういう段階に至っていないアヌスに、剛直の先端が押し付けられていた。

「ま、待っ……ひぁアああぁああああ!」

 押し出された声は、絶叫に、近かった。
 一瞬トんでいたんじゃないかと思う。一瞬視界が白んだ後、最初に目が捉えたのはぐったりと力をなくした自分の腕だった。動かさないようにしているつもりでも、紐は食い込んで幾重にも赤い痕を残している。認識したら痛くなってきたんだぞ。
 もうちょっと丁寧に扱ってくれよ、貫かれた中も押し広げられて引き攣れて、痛い。息なんて整わないし歯の根も噛み合わない。
 そんな俺をアーサーは嬉々として、犯す。

「はっ…堪んねぇな、お前。凄ぇキツい」
「いや、いやだ…ぁっ…ぅあああっ」

 耳元で零される声は滲み出す欲情に熱く濡れている。ゆるゆるとした律動は次第に速度と激しさを増して、俺を目茶苦茶に揺さぶった。自力で膝を立てていることなんて出来ずに、ソファに縋り付いてひたすら耐える。けど不覚にも受け入れ慣れてしまった体は悦ぶのだから、自分のどうしようもなさ具合に吐き気がした。
 とっくに見付け出された前立腺をごりごり擦られる度に、声と先走りが溢れ出していく。あぁ実はもう何回かイってるのかもしれない。体がどろどろになり過ぎてて、頭はスパーク寸前で、もう何がなんだか分からない。ただただ、強い快楽だけが体を支配している。

「どうしようもなくイヤらしい穴だな」

 嘲るような声が聞こえたと思ったら、奥を犯していたペニスがずるりと引き抜かれた。この凌辱から解放してくれるのかと期待した矢先、それは覆される。高く上げさせられる腰。吐息が掛かるくらい近くで、アーサーはぐちゃぐちゃになったアヌスを、割り広げた。
 繊細な内壁に空気が触れる感覚に、俺はぞくんと背を震わせる。見られ、てる。太いのを突っ込まれて掻き回されて善がってた場所を、見られてる。
 羞恥と被虐的な快感に熱い息が漏れる。アーサーは俺の反応に愉快そうに笑って、また一気に奥まで貫いてきた。ずるずる腰の位置を下げてしまうのを窘めるように、軽く尻を叩かれる。

「やぁっそこばっか…やら、やらぁあ! 」

 奥の奥、壁を突き破るのが目的みたいな乱暴な抽挿に、俺は必死で頭を振る。だけどアーサーは聞き入れてくれなくて、寧ろ余計に奥を目指す気配さえ見せる。
 さっきから涙で視界が完全に失われるし、叫び過ぎて喉が痛いし、気分は最悪だ。そりゃあそうだけど。恋人であるアーサーと全く同じ姿形をしてるとはいえ、無理矢理犯されてるんだから。でも、でも、あぁ、体っていうのは本当に素直だ。
 痛ければ引いて、気持ちよければ──もっとと求める。迫り上がってくる絶頂感に、内壁は意図せずにきゅううっとアーサーを締め付けた。

「くれてやるから零すな、よっ…」
「は、ひぃっ! ぁっあああァああああーーっ!!」

 信じられないくらい奥に吐き出された熱に、俺は髪を振り乱して──失神した。



「アル、アルっ! 大丈夫か?!」
「アー、サー…?」

 べしべし顔を叩かれてうっすらと目を開けると、そこには至極心配顔なアーサーがいた。俺の顔を覗き込んでくる目は、鮮やかな翠。だけどあんなに冷たい光は宿していない。
 何なんだ、さっきのは。夢にしちゃリアルだし、ちょっと出来過ぎてる。俺はあんなアーサーに犯されたいなんて思ったことはこれっぽっちもないんだぞ。
 こいつらが悪戯したみたいで、なんてまた幻覚のことを説明し始めるアーサーの話を聞きながら、俺は悶々と考える。
 冷静に検証してみると、あれは明らかに海賊全盛期の頃の様子だった。つまり今から4世紀くらい前の時代。まさかタイムスリップしてたとかそういうアレなのかい?いやいや、流石に飴玉1つでそんなことになる訳が。
 ところで、俺とアーサーがお互いに状況の確認と収集をしようと頑張っているのは、正真正銘紛れもなく床の上だ。俺が倒れてたのを抱き起こしたところなんだからまぁ、しょうがない場所だろう。でもそう長居したいところでもない。床に直に座る文化がある菊の家なら気にしないんだけどさ。
 いい加減床じゃなくて椅子に座ろうと腰を上げたら、物凄い痛み。ついでにドロッとしたものが中から伝い落ちてきて、俺は声にならない悲鳴を上げた。
 そんな非科学的なこと、俺は認めないんだぞ!