「可愛い、ルイ」

 くすくす笑いながらフランシスが俺の髪を梳く。前髪が下りていると子供っぽくなる気がして余り好きではないのだが、フランシスは二人きりでいる時に髪を上げるのを好かない。
 情事が終わった後の気怠い雰囲気の中では纏める気にもならないから、俺はされるがままになっておく。髪から離れて首筋を辿るフランシスの指は華奢ではないが、それでも俺よりは細い。肌だって彼の方が余程白いだろう。
 それでも俺が受け身なのにはもう慣れた。そろそろ半年になるのだから、慣れもするだろう。

「いい加減に離せ。シャワーを浴びたい」
「嫌だね」

 額に落ちた髪を払い除けながら紡いだ言葉は、間髪を入れずにっこりと笑顔で拒否された。俺は盛大に溜め息を吐く。
 なら中で出すな。後始末が面倒臭いから止めろと何度言ったと思っている。じろりと睨むと俺の言いたいことが分かったらしく、フランシスは申し訳なさそうに肩を竦めてみせる。本気で悪いとは思っていないのだから困ったものだ。
 俺はフランシスの腕から擦り抜け、体を起こす。絨毯の上に放られたスラックスを拾い上げようとした俺の上体をフランシスの腕が引き止めた。背後から掻き抱かれる。

「なんか嫌じゃない、避妊してるみたいでさ」

 繊細な、普段武器を取っているのが信じられない指先が、そろりと俺の腹を撫でる。何だその慈しむみたいな触り方は。手を退けさせようとすると、肩口に吐息の気配。
 ──孕んだらちゃんと責任取ってあげる。ルイは本命だからね。
 耳に押し込まれる甘く掠れたテナー。男がどうやって孕むんだ。というか本命でも避妊くらいはしろ。
 反射的に浮かんだそんな言葉たちは、音にはならずに消えていく。柄にもなく赤面しているのが分かる。頬が熱い。フランシスが本気なのか怪しい愛の言葉を囁くのはいつものことなのに。
 何となく気不味さを感じて顔を背ける。さもおかしそうに笑みを漏らしたフランシスの指が、俺の顎を捉えた。振り払う時間は与えられない。

「Je t'aime.」
「………Ich auch.」

 口付けの合間に囁かれた言葉に、俺は口の中で返答を紡いだ。






悔しいけれど君が好き
(こんな感情は絶対に持ち合わせないと思っていたのに、)






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