「はぁ…」
「溜め息吐いてんじゃねぇよ、糞ワイン野郎」

 そんなことを言って、俺の隣に寝転ぶアーサーは眉を顰めた。
 そうは言ったって、ねぇ。憂鬱なんだから仕方ないじゃない。マシューが全然振り向いてくれないんだから。天然なとこがまた可愛いんだけど、お兄さん結構大胆にアプローチしてるのになぁ。

「ウジウジすんな、ウゼェ」

 またフラれでもしたのか、なんてアーサーが言うから、俺は盛大に否定しておく。振り向いてもらえないだけでまだフラれてはない。Nonと言われない限りフラれてない。そう考えないとヘコみそう。マシューも結構俺のこと好きでいてくれてると思ったんだけどな。
 はーぁ。また溜め息が出る。そうしたらアーサーに小突かれた。ちょっと、痛い痛い! 容赦ないな相変わらず!

「さっきまで愛を交わしあってた相手にそれは酷くない?」
「どこに愛があるんだ、どこに」

 んー、どこだろうね。でも少なくとも俺は嫌いな奴とこんな関係にはなったりしないけど。
 なんて言ったらどやされそうだから、俺は心の中で呟いておく。余り冗談が通じない辺り、アーサーは融通が利かないと思う。まぁ長年の付き合いだから何が地雷か、とか一応は把握してるんだけど。余計なことは口に出さないに限るよね。大英帝国様はおっかないから、さ。
 により、笑うとアーサーに睨まれる。怖いなぁ、全く。

「てめ、何すんだバカァッ」

 あんまりその表情が険悪なもんだから、腰を抱き寄せて項にキスしてやったら怒鳴られた。お、赤くなってやんの。可愛いねぇ。さっきまで身も世もなく俺の下で喘いでた癖に。
 ちょっとした悪戯心が芽生えて、アーサーの顎を捉えてこっちを向かせる。意図に気付いたアーサーは逃げようとするけど──もう遅い、よ。

「んっ……ぅ、…ふ…」

 唇を重ねると意外に簡単に侵入を許してくれて、舌を差し込んだら噛まれるどころか搦められた。
 あれ? アーサーさん?
 何となく調子が狂うのを感じながら、俺はキスをより深くする。真っ最中ならまだしも、いつもなら嫌がるのにな、こんな甘ったるいキス。恋人同士でもあるまいし、とか言ってさ。
 あ、もしかしてご傷心の俺を慰めてくれる心算だとか? いいとこあるじゃない、アーサーにしては。
 調子に乗ってもう1ラウンド、とか思ったら、それは流石に拒否される。

「ふざけるな髭」
「お兄さんは至って真面目…いたたたた!」

 太腿に向かおうとしていた手を思い切り抓られた。甘いのか厳しいのかどっちかにしてくれないかな、アーサー。そんな変化球なツンデレには流石の俺も対処出来ないんだけど。
 苦笑を浮かべるとふいっと視線が逸らされる。どうしたのかな、と思っていると吐かれる深い溜め息。人にはウザいだの何だの言っといて、自分だってウジウジしてるじゃない。

「菊と全く進展してない訳?」

 軽い調子で聞いてみると、小さく肩が震えた。当たりみたいだね。会議中よく二人一緒にいたから少しは何かあったかと思ってたんだけど、どうやら俺の思い違いか。
 菊は元々そんなオープンな子じゃないからなぁ。アーサーみたいなタイプだとアプローチし辛いかもね。ちょっと強引なくらいのスキンシップしないと心開いてくれないよ、アーサー? 俺とかフェリちゃんを見習いなさい。
 下心を見せずにフレンドリーに接するのがポイントだ。フェリちゃんは本当に下心なんかないけど。

「何か避けられてる気がしてなんねぇんだよ、最近」
「あらら、ご愁傷様」

 進展してないばかりか避けられてるとか、何かやらかしたんじゃないの。菊は滅多なことじゃ露骨に人避けたりしないぞ。最近でいけばアルフレッドがセーブデータ消したとかで1週間くらい無視され続けたくらいで。
 んー、菊も中々地雷の位置が読めない子だよねぇ。でもアーサーが踏むようなとこには大概ない、筈なんだけどなぁ。

「お互い苦労するねぇ」

 なんて呟いたら、一緒にするな、って怒られた。俺もアーサーも片思いしてるんだから、同じ立場じゃないの。しかもどっちも満願成就は程遠いし。ぁー、何か落ち込んできちゃったよ、お兄さん。でもそうそう諦められもしないしなぁ。
 小さく溜め息を吐いて──アーサーから何も言われないことに俺は首を捻る。また何か言われるのもんだと思ってたんだけど。ちらりと横に視線を流してみると、アーサーは目を閉じていた。微かに寝息が聞こえる。
 お休み3秒…? 一体いつの間に寝たの、アーサー。
 心底驚きがら、眠気に誘われて俺もゆっくりと目を閉じる。今は何も考えずに一眠りして、起きたら気分をリセットして頑張ろう。もう随分と肌に馴染んだ事後の空気の中、俺の意識はすぐに夢の波間に沈んでいった。






友達未満、恋人未満
(腐れ縁に近いこの関係は、意外にもとても快適だ)






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