ルートヴィッヒは留められている数少ないボタンを外していく。露わになる肌は不健康な程に白かった。だから余計にそこに散っている鬱血が目立つ。相手が戯れにつけたのだろうそれが、ルートヴィッヒには所有の痕に見えてならない。衝動的にそこに軽く噛み付くと、ひ、と小さく悲鳴が上がった。

「誰がつけたんだ、これは」
「何、言って…離せよルッ……ふぁ!」

 答えをはぐらかそうとするギルベルトの、薄く色付いた乳首にルートヴィッヒは歯を立てた。びくん、と些か大袈裟にギルベルトの体が跳ねる。甘噛みを繰り返して舌先で転がしてやれば、そこはいとも簡単に充血してイヤらしく勃ち上がった。
 キツく目を瞑って声を殺している兄を見下ろし、ルートヴィッヒはくすりと笑う。

「こんな刺激でもう勃たせているのか?」

 その言葉にギルベルトが顔を真っ赤にする。そうしている自覚はあったのだろう。実の弟に弄られて感じるなんて、何て惨めで淫らな体。
 ズボンの上からそこを撫でてやると、ギルベルトは身を捩って嫌がった。けれど腕を拘束されて自分よりも大柄なルートヴィッヒにソファに押さえ付けられていれば、そんな抵抗は詮ないものでしかない。ベルトのバックルを外す音に、ギルベルトが弾かれたように目を開けた。

「も、お前何がしたいんだよ! 離せって言っ、ゃあっ」

 抗議の声は途中で途切れる。
 下着から取り出された自身を撫で上げられて、ギルベルトは堪らずに声を上げた。数回扱かれれば堪え性のない体はそこを完全に反応させてしまう。ルートヴィッヒの指が動く度に先走りがグチュグチュと水音を立てる。それが聴覚から脳を犯していくようで、ギルベルトは頭を振った。
 混乱した思考が快楽で上手く纏まらないのだろう。瞳には動揺と怯えが張り付いたままだ。それがどうしようもなく、ルートヴィッヒの欲を煽る。

「やだ、ルッツ…ほんとに、も、止め…っ」
「こんなにしている癖に何を言っている」

 懇願を冷たい声で一蹴する。亀頭を撫で回して先端を爪で引っ掛かくと、ギルベルトはゾクゾクと快感に背筋を震わせた。ルートヴィッヒは泣き出しそうなギルベルトの顔を見て嗤う。それが酷薄なものに見えたのだろうか、ギルベルトは反射的に目を逸らした。
 あぁ、本当に何て可愛らしい。

「っ! や、ルッツ…!」

 ルートヴィッヒは下着ごとズボンを抜くと、ギルベルトの膝を割って脚を大きく開かせる。閉じようとするのを自分の体を間に割り込ませて遮った。
 日の差し込むリビングで最奥を暴かれて、ギルベルトは羞恥に震える。慎ましやかに口を閉じたそこは、しかしぷくりと充血していた。赤く染まった粘膜が緊張にきゅう、と窄まる。ルートヴィッヒはすぅと目を細めた。

「ぁっ…ふ、ぁあ…ゃだぁっ」
「これは誰のものだ、兄さん?」

 濡らしもせずに指を差し込んだが、そこは口を綻ばせてすんなりと異物を受け入れた。中で動かせば絡み付いてくる内壁と、体液。引き抜いた指には誰のものともつかない精液が纏まり付いていた。
 目の前に翳して問うてやると、ギルベルトは力なく首を振る。それが答えの不知を告げるものか答えの拒否を告げるものかは分からない。だが、分からなくとも困らなかった。元より答えは求めていない。

「全く、どうしようもないな」

 言いながらルートヴィッヒは指に絡む汚濁を舐め取って、うっそりと口の端を吊り上げる。ギルベルトがあからさまに体を跳ねさせた。逃げを打つことを許さず、ルートヴィッヒはギルベルトの腰を引き寄せる。そして、まだ他人の熱が残る中に。

「ひっぁああぁあ! ゃ、やだルッツ、やあぁ!」

 言葉とは裏腹に、そこは僅かなキツさを感じさせながらもルートヴィッヒを飲み込んでいく。熱く、狭い胎内。奥へと進む度に引き攣った悲鳴が鼓膜を叩く。溢れた精液がソファを汚していくが、そんなことは気にもならなかった。ルートヴィッヒは湧き上がる愉悦に酔い痴れる。
 ずっとこうしたかった。無防備なギルベルトの肢体から目を引き剥がすのに何度苦労したことか。けれどこれからはもう、そうする必要はないのだ。

「ぃや、やだぁ! 動かな、あぁああっ」

 拒否と制止の声など聞こえぬ振りで、ルートヴィッヒは腰を振り始める。前立腺はすぐに見付かって、そこばかり突いてやればギルベルトは泣きじゃくって悦んだ。その間も嫌だ、止めて、と言うのだけれど、それはもう定型句にしか聞こえない。ルートヴィッヒはクスクス笑いながら、涙が伝うギルベルトの頬を撫でる。

「弟の俺に押さえ付けられて犯されて、嬉しいんだろう、兄さん」
「ち…が、違う…そんなの、そんなの……!」

 否定しながら、ギルベルトは強過ぎる快楽に恍惚としていた。
 絡み付いてくる内壁はずくずくに蕩けて、もっと奥へと誘ってくる。ルートヴィッヒはうっすらと汗の浮くギルベルトの、細く白い喉元に歯を立てる。それからキツく吸い上げて、真っ赤な痕を残してやった。シャツのボタンを一番上まで留めても見えてしまいそうな位置に。
 ギルベルトがくしゃりと顔を歪める。呼応するようにルートヴィッヒは薄く笑う。グッと腰を掴んで律動を加速させると、悲鳴に近い嬌声が跳ね上がった。

「は、ぁああっ…ゃ…だ、め…も、だめぇっ」

 奥深くを抉るように突けば何にも縋ることの出来ない指が空しく宙を掻く。
 どうして欲しい。そう問えば、ギルベルトは現実を見たくないとでも言うかのように目を閉じた。か細い声が喘ぎの狭間で望みを紡ぐ。

「ああぁあぁっ、せて…イかせてぇっ…ぁ、ふぁあっあ、─────っっ!」

 声にならない声を上げてギルベルトが体を強張らせる。吐き出された白濁が彼の胸まで飛び散った。同時に痛いくらいに内壁が収縮して、ルートヴィッヒは奥にたっぷりと精を注ぎ込んだ。
 びく、びく、とギルベルトの体が痙攣する。閉じた瞳の端から大粒の涙が零れ落ちた。糸の切れたマリオネットのようにかくん、とギルベルトの体から力が抜ける。それから細い寝息が聞こえ始めた。
 ルートヴィッヒは少しだけ困ったように眉尻を下げる。ギルベルトを見つめる瞳は穏やかだ。愛しい愛しい、たった一人の人を見つめる眼差し。そして彼は微苦笑を浮かべたままギルベルトに、実の兄に顔を寄せて、そっと囁いた。

「もう逃がしてなんかやらないよ、兄さん」






露呈する欲望
(一度溢れ出してしまえばもう二度と抑えられやしないのさ!)