じわり、じわり、と指に力を込めていく。それは儀式に近かった。いつでもこの手でギルベルトの全てを奪えるのだと確認することで、心の平穏を導く。
馬鹿げている。命を握ったところで、心が手に入る訳ではない。
そんなことは十分に分かっていた。けれど、止められなかった。本当に殺してしまえる筈もないのに、愛しい愛しい兄を。
だから、これは儀式なのだ。自分を騙す為の、決して届かない想いを慰める為の。端から見れば根本的な解決などには程遠い、空しいだけの行為に過ぎなかったとしても。ルートヴィッヒの中では、それは確かに意味を持っていた。
「か、は……っ…ぁ…ひぃ!」
腰を奥に突き付けると、ギルベルトは悲鳴を上げた。空気が足りなくて嬌声が引き攣れてしまっただけかもしれないが。
ルートヴィッヒはそのままずるずると、情事なのか加虐なのか判断出来ない行為を続行する。窒息する程でもない力、それでも息苦しさを感じさせるだろうそれに、ギルベルトは抵抗する術を持たない。出来ることと言えば、しがみついて事の終わりを待つことくらいだ。
「は、ぁっ…ひ…ひ、ぁあ…っ」
とろとろと蜜を零している自身に触れてやると、空気を求めて喘ぐ口から甘い声が漏れた。弱いところを掠める度に粘膜が絡み付いて先を求めてくる。
こんなにも体は求めてくれるのに、とルートヴィッヒは心中で独り言る。心はいつだって酷く、遠い。ギルベルトが自分を拒絶することは承知していた。どうせ拒まれるならせめて、と思ってしまったのも紛れもない自分だ。
それでも──それでも本当は、傷付けたくなかった。それなのにギルベルトが欲しくて堪らなかった。
二律背信の心情におかしくなってしまいそうで。無防備過ぎる彼に手が伸びたのは、半ば以上無意識だった。だから自分は悪くないと言うつもりなどない。誰が責を負うべきなのかなのかは明白だ。あぁ、そもそも彼を愛してしまったこと自体が。
「兄さん、俺は…」
白い頬を濡らす涙の跡を舌で辿る。紅のに瞳に触れると、ギルベルトはびくりと体を跳ねさせた。異物を排除しようとして見る間に涙が溢れ出る。ルートヴィッヒはそれを舌先で掬いながら、問いとも独白とも知れない言葉を紡ぐ。
「俺は、どうするべきだったんだろうな」
いっそギルベルトへの想いを自覚した時に、離れればよかったのかもしれない。そんな頃でなくとも高校進学などいい機会だったろう。遠くの進学校にでも入学すれば、一人暮らしで少しは頭が冷えた可能性もある。
だが、それは不可能だった。離れられる筈がない──たった一人の家族から離れることなど、出来ない。それもこれもきっと自分勝手な、甘ったれた考えなのだ。
分かっている分かっている。それでもどうしようもなかったのだ。自分一人で答えを導き出すには心的余裕も人生経験も足りなかった。誰かに相談することなど、頭に浮かびもしなかった。言える訳がない、誰にも。こんな想いを実の兄に抱いているなんて、そんなこと。
「ぁ、あ?!
ゃ、っっ」
ぞくん、とギルベルトが背をのけ反らせる。ルートヴィッヒはタイミングを逃さずに、限界に震える自身を扱き上げてやった。跳ね上がる快楽に見悶えた直後、どぷりと白濁が吐き出される。酸素が少ない状態で上り詰めたギルベルトは放心しているが、生憎待ってやるつもりはない。
律動を早め、快楽に蕩けきった体を奥深くまで貪る。体力のほとんど使い果たしてしまったのか、ギルベルトは喘ぎ声を漏らすのさえ苦しそうだ。
「………ろ…、て…」
掠れ声の懇願が喘鳴と共にギルベルトの口から零れる。
どうしてそれに従う形で手に力を込めたのか、そうしたルートヴィッヒ自身にも分からなかった。
それは誘惑の言葉
(貴方はいつも、俺を惑わして止まない)