静かな室内に、テレビから流れるアナウンサーの声が響いている。こちらが聞いていようといまいと関係なく話は進んでいく。
 フランシスは眺めていた新聞をリビングテーブルに放り出した。ソファに座っている姿勢をずるずる崩して、袖で顔を覆う。迫り上がってくる感情にどう耐えればいいか、フランシスには分からなかった。深い呼吸を繰り返し、自分を落ち着かせようとする。けれどそれは余計に爆発しそうな感情を煽っただけだった。
 落ち着け、冷静になれ──フランシスは自分に言い聞かせる。それでもざわついた心はなかなか静まってはくれない。何で、と声に出して呟く。何でそんな風にしか出来なかったのだろう。

「、フランシスっ」

 どたどたと騒々しい足音がしたかと思うと、荒々しく扉が開かれる。玄関は開いてるよ、とは言っておいたものの、何とも遠慮のない来訪の仕方だ。けれどそれを咎める気にも茶化す気にもならない。フランシスは顔を覆っている腕をずらして、アントーニョに視線を向けた。
 彼は、泣いていた。ぼろりぼろりと透明な滴が頬を流れる。

「ギルちゃんが」
「…知ってる」

 だから言わないでくれ、とフランシスは言外に告げる。
 そう何度も何度も確認したいようなことではない。アントーニョはこくりと頷いて、ソファの隣に腰を下ろした。暫く沈黙が訪れる。
 テレビは何の感情もなく情報を吐き出し続けている。フランシスはまた袖で顔を覆う。
 信じられなかったし、信じたくなかった。何で、どうして。そんな言葉ばかりが思考を支配する。
 何か出来ることがあったかもしれない、そう思うと酷く胸が締め付けられた。ルートヴィッヒを問い質していれば、無理矢理にでも家に乗り込んでいれば、何か変わっていただろうか。そう考えるのも、もう全てが終わってしまったからだ。

「なぁ、」
「ん?」

 アントーニョに声を掛けられて、フランシスはそちらに視線を向ける。彼は新聞の記事を睨むように見つめていた。
 1面でこそないものの、地方面では面積を取っている記事だ。軽微犯罪の小さな記事の中でそれはやけに目立って見える。週刊誌なんかにはいいネタなんだろうな、とフランシスはぼんやり思う。

「これ、本当なんやろか?」

 そこに書いてあるのは、事件発覚のあらましと死因、警察の見解くらいのものだ。
 アントーニョが言ったのは事実関係の推測についてだろう。
 無理心中。
 そこにはそう書いてあった。理由までは明言されていない。まだ判明していないのか、しているが伏せたかのどちらかだろう。どちらであっても、起きてしまったことに変わりはないのだけれど。
 フランシスは細く息を吐く。

「本当なんじゃない…残念ながらね」

 ルートヴィッヒとギルベルトが一緒に死んでいたなら、無理心中以外には有り得ないだろう。
 ギルベルトが自ら死を選ぶことなど──考えたくはない。どんな気持ちでそうしたのか、彼をそれ程までに打ちのめしたものが何であるのか。
 あぁ、反吐が出る。最悪だ、こんなことが起こるのは小説やドラマの中だけでいい。

「こんなの、誰も報われやしない…誰も」

 頬を伝っていく液体に唇を噛み締めて、フランシスは重い息を吐き出した。






救いなき終焉
(こんな結末、きっと誰も望んでいなかった)