しとしとと雨が降っている。折角訓練しにきたのに、とフェリシアーノは心中でぼやいた。
自分に苦痛を強いる行為は好きではない。だから訓練がなくなった、ということ自体は純粋に嬉しかった。けれど、それはそれでつまらないのだ。訓練となれば睨むようにこちらを注視してくる癖に、彼──ルートヴィッヒは今その視線を本のページに向けていた。
フェリシアーノが不平不満を漏らしながら、それでも訓練に参加するのは彼の為であるところが大きい。とは言っても彼を守りたいなどという思考があるのではなく、単純に接しているのが楽しいだけなのだが。
フェリシアーノはルートヴィッヒが好きだ。所謂likeではなくてloveの意味で。何度も伝えているうちに、最初は戸惑っていたルートヴィッヒも少しは慣れてくれたようだった。今ではごくごくたまに、応えてくれることさえある。
しかしそれでは足りないのだ。フェリシアーノとしてはもっとキスもハグも、それ以上もしたい。今だって折角二人っきりなのに、恋人同士でいるような雰囲気は微塵もない。それは悲しいことだし、少し不安にもなる。
「ねぇルート」
「…何だ」
声を掛けてもルートヴィッヒの視線はページに固定されたままだ。声が少しだけ疲れたような調子を含んでいるのは、じっと見つめられていたことに気付いているからだろうか。フェリシアーノは凭れ掛かっていた肘掛けから体を起こし、ルートヴィッヒににじり寄る。
間近から覗き込むが、それでもルートヴィッヒの視線は自分に向かない。ぷう、とフェリシアーノは頬を膨らます。それから勢いをつけてルートヴィッヒに抱き付いた。
「、フェリ!」
「もっと構って欲しいであります、隊長!」
本が手から弾かれてルートヴィッヒが声を上げるが、フェリシアーノは気にしないことにした。先程から言いたかったことを滔々と口にする。言いながらぐりぐりと肩口に懐くと、ぺいっと引き剥がされた。
お国柄、感情を外に出すのが苦手だとは分かっているのだが、フェリシアーノはそれでは満足出来ない。自分の我儘だと知っている、けれど。ルートヴィッヒの態度は余りと言えば余りだ。
「俺はもっと色々恋人らしいことしたいよー」
顔を覗き込むようにしながら訴えると、ルートヴィッヒは気拙そうに視線を逸らす。耳の辺りが赤くなっているのは、もしかしなくとも照れているんだろうか。
本当に可愛いなぁ。
口に出そうものなら確実に怒鳴られる台詞を心の中で呟いて、フェリシアーノはにこりと笑う。
「だって俺、凄くルートのこと愛してるんだもん。ね、ね、ルートは?」
俺のことどう思ってるの? 教えてよ、ねぇねぇ。ルート、ルート、ルートヴィッヒ。
膝の上で、フェリシアーノは恋人に強請る甘い声を出してやる。ルートヴィッヒはますます顔を赤くして、外方を向いてしまった。
けれど微かに口が動いて。
雨に消える声
(それでも俺にはちゃんと届いたよ、)
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