朝、少しだけ、ほんの少しだけ早く起きて。隣で眠る恋人の顔を見る。そんな、行為。それはとても些細なことだけど、とても幸せな気持ちになれる行為。こうして今日もまた隣で目覚められることを、俺は感謝したい。何にって言われたらちょっと、困るけど。神様とか、そういうのかな。
 俺はもぞもぞ動いてムキムキに寄り添って、また目を閉じる。そうしたのは外気がかなり、冷たかったからだ。季節はまだ初冬といったところだけど、そんな頃からこの国はかなり冷える。俺より北に位置しているから仕方ないとは思うんだけど。体が薄っぺらい俺にはちょっと堪える寒さだ。
 だから──半分くらいは単純にそうしたいから、俺はルートヴィッヒに抱き付きにいく。外だと若干諦めながらも怒られるんだけど、家だとちゃんと抱き返してくれる。それが俺には嬉しい。
 俺はどこでだって恥ずかしがらずに抱き返してくれるようになってもらうつもり。だけど、それはまだ大分先でもいいや。今はこうしていられるのが一番幸せ、だし。えへ、ふにゃっと笑ってまた目を開ける。
 と、アクアブルーと視線が搗ち合った。すっごく見たことあるなぁ、この色。そうそう、ルートヴィッヒの目が丁度こんな色、で。

「ヴェ?」

 ルートヴィッヒの目が丁度こんな色、というか、これは正しくルートヴィッヒの目なんでは。
 あれれ、いつの間に起きたんだろう。見られちゃってたかなぁ。だとするとちょっと恥ずかしい。

「…おはよ?」
「珍しく早いんだな」

 照れ隠しに挨拶すると、俺としては何とも情けない答えが返ってきた。
 何かルートヴィッヒの言い方だと俺が毎回寝坊してるみたい。…いや、事実放っとかれるとお昼くらいまで寝ちゃうんだけどね。でもそれは俺がいけないんじゃないと思うんだ。ルートヴィッヒが可愛く啼くからつい暴走しちゃって体力使ったり、ムキムキが暖かくて気持ちよかったり、そういうののせいだもん。俺は悪くない、きっと多分ぜった、い?
 でもでも菊に話したら「けしからんもっとやれ!」って言われたし。駄目なことじゃないんだよねー?
 ってルートヴィッヒに言うのは、ちょっと意図的に忘れてたりする。だって怒られそうだし。怒られるの嫌だし。怒っててもルートヴィッヒは可愛くてどうしようもないんだけど。

「布団から体はみ出してたみたいでね、寒くて目覚めちゃったんだー」

 えいっとくっついたら、やっぱりルートヴィッヒはムキムキ暖かかった。新陳代謝がいいのかな? 俺も筋肉つけたら暖かくなるのかなぁ。もしなるなら頑張ってみたりとか、出来るかも。ルートヴィッヒが抱き付いてきてくれたら嬉しいもんね。
 なんて考えてたら、徐に動いたルートヴィッヒが肩を抱いてきた。ほかほか高い体温が伝わって気持ちいい。

「冷やすと風邪を引くぞ、お前は自己管理がなっていないからな」
「これでも気を付けてるつもりだよ?」
「つもり、だろう」

 溜め息が額を擽る。言い返せなくて、ヴェー、と俺は声を漏らした。何度も看病してもらってるもんなぁ。風邪を引いた原因は経済とかじゃなくて、明らかに俺の不注意だ。それも十中八九で。これは言い返せない。どう頑張っても言い返せない。これは、っていうか、ルートヴィッヒに正面に言い返せたためしなんか、ほぼないのが事実だけど。
 ルートヴィッヒって理詰めでくるんだもんなー。何かもっとこう、感覚的な感じだったら言い返せる気がするんだけど。曖昧なの嫌いなんだよね、ルートヴィッヒって。肝心なことは曖昧に暈しちゃう癖にさ。
 上掛けがずり上げられて、しっかりと肩を覆う。俺は視線を上げてルートヴィッヒを見る。さっきまで開いていた目は、もう閉じられていた。長い睫毛がすっごく、綺麗。
 違う違う、確かにルートヴィッヒは綺麗なんだけど。俺がルートヴィッヒを見たのは、そういうのを確認したかったんじゃなくて。

「起きないの?」
「たまの休日くらいのんびり寝ても罰は当たらん」

 だからお前ももう一眠りしろ。
 そういうルートヴィッヒの声はいつもより少しだけ柔らかい。俺にだけ見せてくれる一面の一つだと思うと、堪らなく擽ったい気分になった。本当に、可愛いんだから、ルートヴィッヒったら。
 俺今凄く幸せ。って耳元で囁いたら、ルートヴィッヒは真っ赤になって顔を背けてしまった。あは、体温もちょっと上がった?恥ずかしがり屋さんだなぁ。愛とか恋とか、そういうのに開放的じゃない気質も、大好きなんだけどね。
 これ以上言うと拳骨くらいは降らされそうだから、黙っとこう。幸せな気分のまま眠りたいから。数十分後か数時間後に目覚める時、隣にはルートヴィッヒがいるんだろう。それはやっぱり、とっても幸せなことだと思う。
 温かい気持ちのまま、俺はまた眠りの世界へと引き込まれていった。






君がいるだけで
(俺はとってもとっても、幸せなんだよ)






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