俺はお前を愛してる。
「おはよう、ヴェスト」
俺は硬く閉ざされた鉄扉を開く。
中は広々とした部屋になっていて、申し訳ばかりの調度が置かれている。椅子と、テーブルと、ベッド。それだけだ。それ以上は必要ない。窓は嵌め殺しで、ついでに格子がつけてある。割って侵入でもされたら困るからな。そしてベッドの上に、俺の愛しい愛しいルートヴィッヒの姿。身長なんてとっくに抜かれてしまったが、ルートヴィッヒがそれでも可愛い弟であることに変わりはない。
挨拶に返事はなかった。ルートヴィッヒはまだ眠っている。俺は側までいって、そっとルートヴィッヒの頬に触れた。
少しやつれたかな、と思う。食事はちゃんと食べさせてるし、この部屋は光だって差す。ルートヴィッヒの健康を損ねるものなんて何もない筈だ。それなのにルートヴィッヒは少しずつ衰えていく。それが予め決められていることみたいに。
「ヴェスト、」
俺はルートヴィッヒの乱れた前髪を払って、そっと眉間に口付ける。
もう起きる時間だよ、ヴェスト。
俺の呼び掛けにルートヴィッヒは答えない。ルートヴィッヒはまだ眠っている。昨日無理をさせ過ぎたかな、なんて思いながら、俺は静かに寝息を立てるルートヴィッヒの顔を眺める。
ヴェスト、ヴェスト。あぁ早く目を覚まして。お前がいなければ俺の世界は寂し過ぎる。だから誰にも奪われないように、遠くへ行ってしまわないように、俺はここにルートヴィッヒを閉じ込めた。
離さない。離れることなんか許さない。なぁ、ヴェスト。
「……、ん…」
ひく、とルートヴィッヒが睫毛を僅かに震わせた。俺はじっと側でルートヴィッヒの顔を見つめている。ゆっくりと瞼が押し上げられる。隠されていた碧の瞳が、俺を捉える。
瞬間的にルートヴィッヒの顔に浮かんだ表情は何だったのだろう。すぐに消えてしまったから、俺には分からなかった。小さく鎖の音をさせながらルートヴィッヒがベッドの上に身を起こす。
扉を開けようとして手を傷付けたから、最近手枷をつけてやった。ベッドに繋いであるから、扉にはぎりぎり届かない。それでルートヴィッヒが無駄な怪我をする可能性が一つ減った。俺はそれが嬉しい。この世の何ものだって、ルートヴィッヒを傷付けることは許されないんだ。
そう、勿論俺だって。
「おはよう、ヴェスト」
「…おはよう、兄さん」
少し間を開けて答えたルートヴィッヒの額に俺は軽く口付けた。昔やっていたみたいに。複雑そうな表情をルートヴィッヒがしたけど、俺には全く気にならなかった。
この閉鎖された空間で、誰にもお前を冒させずに過ごしたい。そんな俺の細やかな願いをどうか拒まないで、ヴェスト。
鳥籠に閉じ込めて
(もうお前を離してやらない)