その年の冬はとても寒かった。
寒波が襲ったということだけではなく、心理的なものが強かったように思う。敗戦と共に始まった分割統治、何の前触れもなく建てられた、壁。それによって彼とその兄は──ルートヴィッヒとギルベルトは、隔絶を余儀なくされた。たかが一つの壁、されど一つの壁。堅牢なそれは亡命を謀る者を冷徹に拒んだ。容赦なく浴びせられる銃弾に何人が倒れたことか。気が滅入るから正確な人数は覚えていない。
ルートヴィッヒは読んでいた本から顔を上げ、寒風に鳴る窓に視線を遣った。街灯のぼんやりとした光が余り色彩のない街路を照らし出している。今夜は格段に冷えている、そんな日の深夜近くに出歩こうなどと考える人間は流石にいないようだ。野良猫さえ風の当たらない場所で丸くなっているだろう。それでも街灯は勤勉に光を放ち続けていた。
今夜はあちらもきっと冷え込んでいるのだろうな。そう考えると、思考は自然とギルベルトのことばかりを考え始める。その間も本のページを捲ってはいたが、内容など当然頭に入ってはこない。
笑って壁の向こう側へと消えた兄。元気にしているだろうか、酷い扱いは受けていないだろうか。あの男が統治しているばかりに、そのことばかりが気に掛かる。──イヴァン。いけ好かないと言っていた男のところに、自ら行くなんて。
深い溜め息を吐き出し、ルートヴィッヒは本を投げ出した。夜も随分と更けた。明日は休日という訳ではないから、もう寝なければ。細く開けていたカーテンを閉め、戸締まりを確認。それからソファの側のランプを消す。暗闇の中でルートヴィッヒは今一度息を吐き出した。ギルベルトのいない家の中は、いくらストーブを焚いたところで寒々しくてしょうがなかった。
階段を上がり、自室に入る前にちらりと廊下の向こうに視線を投げる。当然のことながらそこに人の気配はない。ギルベルトがいた頃はこの時間ならばまだ明かりが煌々と点いていた。それが最早遥か昔のことのように感じられて、異様に懐かしかった。
メルトダウン冒頭より