「何だお前らも来たのかよ」
「心底嫌そうに言うなばかぁっ」
 そんな会話から始まったギルベルトとアーサーの会話は、何故だか弟自慢に流れ付いていた。
 場所は世界会議の会場からさして遠くもない、それでも会議からは離れたと思える辺り、高級過ぎも大衆過ぎもしない店の一角である。俺とギルベルト、フェリシアーノに菊といういつもの面子で呑みにきていたところ、たまたまアーサーとアルフレッド、それにフランシスがやってきたのだ。
 ギルベルトとアーサーは最初の啀み合いとも戯れ合いとも取れない会話から、完全に二人の世界に入って喋り続けている。かなりの速さでグラスを空けているが大丈夫だろうか。ギルベルトもアーサーもなかなかに強いが、少し不安になってくる。特にアーサーの方は、酔うとあれこれと厄介なことを起こすので有名だ。酔わなくとも厄介なことを起こしている気が若干するが。
 盛り上がっている二人を覗いた俺を含む五人は、その様子を眺めながら和やかに会食中だ。オフにこの顔触れで一つのテーブルを囲むことは珍しく、新鮮な気持ちになる。それは他の奴らにしても同じなようで、会議とはまた違った雰囲気で盛り上がっていた。菊とフランシスは携帯の画面を見ながらmoeだの何だのと言い合っている。フェリシアーノとアルフレッドは主に食べるのに夢中だ。そして俺は、ギルベルトとアーサーの監視をしつつビアグラスを舐めていた。
 様子が気になって楽しむどころではない、というのが正直なところだ。個人的な付き合いでは存外仲がいいことを知ってはいた。が、こうして目の前でそれを見せられるのは、余り心地良いものではない。うっかり威圧感を発してしまわないようにしながら、俺は二人の様子を見つめる。共感したり反発したりと忙しいものだ。
 これだけ人数がいて一人の相手にかかりきりというのはどうなのだろうな。温くなってしまったビールを、それでもちびりちびりと飲みながら思う。熱くなり易い性質であるにしても、全く。
「なぁーに嫉妬の眼差しで見てるのルイ?」
 そんな俺の様子をいつから見ていたのだか、フランシスが口元をによによさせながら絡んできた。肩を抱こうとする手を透かさず叩き落とす。だがフランシスはによによ笑いを引っ込めず、俺の視線を辿ってあぁと息を漏らした。
「ジルね。兄馬鹿発揮してるだけだからそんなに心配しなくても大丈夫じゃない?」
「心配はしていない」
「じゃあ何でそんなに見つめてるの」
 さぁお兄さんに教えてごらん、じょりじょりと寄せられる髭面を押し返す。どうやらフランシスも大分酔っているらしい。テーブルを見てみればワインボトルの山が出来ていた。いつの間にそんなに呑んだ、いつの間に。俺はまだ三杯目が残っているというのに。






Honey×Bunny冒頭より




 目が覚めたのは朝の眩い日差しが差し込んできたから、ではなかった。どういう訳だか知らないが、変に熱いのだ。足剥き出しの格好で暫くいたから風邪でも引いたんだろうか。こっちに戻ってきた時程辛いことはないだろうが、無視して寝て拗らせると厄介だ。俺は嫌々ながら瞼を押し開ける。
 まず目に映ったのはシーツで、それから小さな自分の手だった。今が何時だかは面倒で確認する気になれないが、まだ魔法は解けていないらしい。やれやれ、小さく息を吐きながらシーツについた手は少し汗ばんでいる。何が原因でこんなに汗掻いてるんだ俺は。体を起こして布団を捲る、そうすることで原因は何となく、分かった。分かって、しまった。
 俺が着ているのは縮まされたせいでサイズが合わなくなった自分のシャツだ。ウエストのサイズが一緒な訳もなく、スラックスどころか下着もない状態。それでもシャツの裾がきっちり下肢を隠してくれていたから大して気にはならなかった。の、だが。今この時は、緩く勃ち上がったペニスがシャツの合わせ目から覗いて、その存在を主張していた。…何がどうしてこうなった。
 体が小さくされただけとするなら、こうして反応するのはおかしいことじゃあない。けど淫夢を見たんでもないのにこうなってるのはどうしてだ。薬を盛られたという線だって考え難い。溜まってる筈も、ないんだけどな。
 そうは思っても、一度認識してしまうとなかなか見なかったことには出来ない。俺はそろりと手を伸ばしペニスに触れた。やけに熱く感じるな、思いながら握り込めば反応は一気に加速する。手を動かす度に自然に声が漏れ、籠った息が零れた。あ、あ、ヤバい、凄ぇイイ。
「ふぁ…あっ……何で、こんな…っ」
 いつもより敏感に反応する体に戸惑いが隠せない。何でこんなに感じるんだ。つか何でこんなに盛り上がってんだ。発情期のケダモノでもあるまいし。ん? 発情期?
 確かこっちに帰ってきて、始めてフランシスとアントーニョに会った時だ。アントーニョが「兎や…!」とか言ってフランシスが「じゃあ年中発情期? 確かめさせてよジル」とか言って…そう、兎はある時期以降はずっと発情期とか何とか。
 俺は普段はない感覚へと意識を向ける。頭に兎耳、尻に兎尻尾。全身兎に変わっちまった訳じゃないが、兎といえば兎な姿。まさかこれ、この耳と尻尾のせいか。そうなのか。






Honey×Bunnyエロシーン一部